2021-08-25

商社だからできることとは何か? 『三菱商事』に見る水素戦略

ケミカルタンカーによる水素の海上輸送(イメージ)

国と国をまたいだサプライチェーン構築へ



 2020年12月。東南アジアのボルネオ島北部に位置するブルネイ・ダルサラーム国で製造された水素が大型のコンテナ船で日本に運ばれてきた。この距離、実に約5千㌔㍍。これだけの規模で、国と国をまたぐ水素輸送を達成できたのは世界で初めてになる。

 これは2015年から昨年末まで行われた『AHEAD(次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合)』プロジェクト。

 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて、三菱商事やグループの千代田化工建設、日本郵船、三井物産が参画し、水素の供給地であるブルネイから、需要地である日本まで輸送する国際間水素サプライチェーン(供給網)の構築に取り組むというもの。この実証事業が昨年末に完了したということである。

 ブルネイの主要産業は石油・天然ガスなどのエネルギー輸出。三菱商事は1963年からブルネイのLNG(液化天然ガス)事業に参画して以来、約50年に渡って、ガス開発から、輸送、販売といったバリューチェーンを構築。日本へのエネルギー安定供給に貢献してきた。

 その三菱商事が今回、ブルネイと日本を結んで、水素という新たなエネルギー資源のサプライチェーン構築に乗り出しているのだ。

「世界中で水素関連のいろいろな技術開発が進んでいる中で、NEDOや日本政府の支援もあって、ここまでの規模で国際間輸送が実現できたのは世界で初めて。今回の実証は、水素をつくる、運ぶ、取り出す、使うという水素バリューチェーンの構築に向けた社会実装の第一歩。水素社会の実現に向け、まだまだ小さいが、それでも大きな一歩だと思う」

 こう語るのは、三菱商事プラントエンジニアリング本部インフラソリューション部部長の藤本毅一郎氏。

 “究極のクリーンエネルギー”と呼ばれる水素。近年、エネルギーとして使用する時に、CO2(二酸化炭素)を排出しない次世代エネルギーとして世界中の注目を集めている。

 ただ、水素は通常気体として存在するため、液体にするにはマイナス253度に冷却しなければならない。体積当たりのエネルギー密度が小さいこともあって、製造方法や輸送・貯蔵方法が大きな課題となっている。

 AHEADの実証事業では、ブルネイで製造した水素とトルエンを結合させることで液化したメチルシクロヘキサン(MCH)をコンテナ船で輸送した。

 気体の水素を輸送しやすい液体に変えるのは、千代田化工が持つ「有機ケミカルハイドライド法」を活用。MCHに変換することで、気体の水素と比べて体積が500分の1になり、常温・常圧で水素を運ぶことができる。このため、既存のコンテナやタンカーによる輸送や貯蔵が可能になるという。

 同実証における水素輸送能力は年間210万㌧。フル充填した燃料電池自動車(FCV)約4万台に相当する規模。これだけの規模の水素を約5千㌔㍍離れたブルネイから日本に持ってきたのが世界初ということだ。

「トルエンに水素を組み合わせて、商業化を目的に、まとまった量の水素を運んだのが世界初ということ。ただ、水素を液化するのはマイナス253度、天然ガスはマイナス162度なので、はるかにコストや技術的な難易度は高まっている。千代田化工は長年、石油化学をやってきて、いろいろな種類の触媒をつくってきた。その延長線上にある技術を活用し、水素という分野でもお役に立てればと考えている」(藤本氏)

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