2021-08-19

【三菱グループの改革】 創業150年「旧来のしきたりをなくせ!」 三菱マテリアル社長・小野直樹の意識改革

小野直樹・三菱マテリアル社長


「他社に後れ」という認識からスタート

 MMDXは、他社から「後れをとっている」という現状認識からスタートしている。

 DXのそもそもの出発点は2017年に発覚した品質問題。

 品質不正を防ぐため、検査データを自動で取得し、人が介在しないシステム化を実施。「こうした発想がすべての業務で足りなかったのではないか」との反省から、デジタルの力で「『顧客との距離を縮める』を柱に、すべての業務プロセスを見直し」たり、「競合の取り組みに追いつき、グローバルで勝っていくための基盤をつくる」こと、「安全・安心などモノづくり活動の高度化、経営管理やデータ活用の高度化、業務効率化の推進など経営基盤を強くする」といったテーマが設定された。

 MMDXを推進するのは「DX推進本部」。本部長を務めるのは日産自動車や中国の東風汽車、資生堂で経験を積み、20年2月三菱マテリアルに入社した最高デジタル責任者(CDO)の亀山満氏。また、今年4月には三菱ケミカルの情報システム部長兼DX推進プロジェクトマネジャーを務めた板野則弘氏が入社。執行役員、最高情報責任者(CIO)、システム戦略部長兼ICT推進室長として、DXの仕組みづくりを進めている。

 DX推進本部はシステム部門の人員約10名でスタートしたが、今では事業部や人事などの管理部門、外部のコンサルタントなども含めた多様な人材で構成。

「若手の意見など組織のヒエラルキーとは異なるアプローチを取り入れてプロジェクトを推進している。良い部分は全社にも取り入れていくべきだと考えている」と小野氏は語る。

「変化に対応しながら創業150年を迎えたが、151年目が保障されているわけではない。新たな素材、技術を創造し、1つでも多くの社会課題を解決するのがわれわれの使命。全グループ社員が一丸となり、新たな価値を生み出すためにも、DXが大きな力になると思っている」

 では、DXで生まれる新たな価値とはどんなものか──。

 具体例として、加工事業のDXがある。

 欧米の競合に比べ、顧客へのデジタルソリューション対応が後れているという課題がある。そこで、顧客とのデジタル接点を強化し「今までのようにオーダーがきてから対応するのではなく、センサーなどで工具の摩耗を検知して、お客様が管理しなくても丸ごと面倒みますというようなソリューション型のビジネスを目指していく」。

 また、ソリューション型ビジネスで重要になってくるのは「お客様が望む範囲をどこまで提供できるか」ということ。

 個別対応し過ぎては、収益悪化の要因にもなってしまう。そこで、目指すのがデジタル化したプラットフォームの構築だ。

「標準的なものにお客様のカスタマイズしたスペックが乗るのが理想ですが、そのためには、素材や部材で圧倒的に抜きん出なければいけない。ものづくり力を強化し、われわれが技術的な優位に立てるところを目指していかなければいけない」と気を引き締める。

 今までにない価値を創出するには、異質な発想も求められる。DX推進本部は、そうした新たな発想が生まれる土壌がある。

「外部のまったく違う世界で仕事をしてきた人から出てくる議論や発想が、会社全体に大きな刺激を与えている」からだ。

 MMDXには〝人材育成〟の狙いもあり、全従業員がDXを学ぶ『DXカレッジ』、事業部ごとのDX啓発ワークショップの『DXキャラバン』、若手社員と経営層が階層・組織を越えてコミュニケーションする『リバースメンタリング制度』などの取り組みが実施されている。

 小野氏自身も参加し、若手社員と意見交換した感想を次のように語る。

「常日頃、話をするのは経営層などの同年代。もっと幅広い世代と話をすることが必要。彼らの発想や考え方を知ることで気付くこともある。彼らが最大限力を発揮できるようにすることは、事業戦略を考えるのと同じくらい重要だと感じている」

三菱マテリアル「リバースメンタリング制度」
若手2人と経営層が対話をする『リバースメンタリング制度』の様子


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