2021-08-13

【政界】追い込まれた菅首相が無投票再選? 総裁選で透ける自民党実力者の思惑

イラスト・山田紳



「西村は商売を知らん」

 しかし、政権の置かれた状況は厳しさを増している。最も大きな誤算は経済再生担当相の西村康稔の勇み足だ。政府が東京都への4回目の緊急事態宣言発出を決めた後、西村は酒類提供の停止に応じない飲食店対策として、取引先の金融機関や酒類販売事業者を通じて働きかける方針を打ち出したが、関係者や世論の猛反発を受け、相次いで撤回に追い込まれた。

 これらの対策案は、菅も出席した7月7日の関係閣僚会合で事務方が説明していたが、閣僚間では具体的な議論にならなかった。それなのに西村が翌日、記者会見で発表してしまったのだ。副総理兼財務相の麻生太郎は「何でこんなことになったかというと、たぶん商売知らないからだね」と西村らの不手際にあきれた。

 案の定、この問題は内閣支持率を直撃した。時事通信の世論調査(7月9~12日)で支持率は29・3%と政権発足後、初めて3割を切り、不支持率は最高の49・8%だった。毎日新聞の世論調査(同17日)でも支持率は30 %と最低を更新し、不支持率は62 %に達した。酒類提供に関する朝令暮改のような政府対応に「問題があったと思う」との回答は74%に上った。

 それでも自民党幹部は「支持率で選挙が勝てるわけじゃない」と強気を装う。同党と立憲民主党など野党の支持率にはまだかなりの開きがあり、データ上は、09年の政権交代前夜のような雰囲気はない。

 とはいえ、政権には手詰まり感が漂う。自民党の一部からは内閣改造論が出ているが、菅はコロナ対策最優先を理由に乗り気でない。もとより「河野や小泉ら人気者はすでに閣内にいる。サプライズがない」(閣僚経験者)のが難点だ。「五輪が始まれば風向きが変わる」という政権の淡い期待は、開幕直前に首都圏で感染者が急増し、消し飛んだ。無観客でも五輪を無事に乗り切れる保証はない。

 パラリンピックは9月5日に終了する。当初有力視されていたのは、開会から間を置かずに臨時国会を召集し、解散する案だ。その場合は8月中に召集日を決める必要がある。しかし、よほど状況が好転していない限り、公明党は早期解散に抵抗するだろう。

 一方、菅は「10月から11月までの早い時期に、希望するすべての人にワクチン接種を終えたい」とワクチンの普及に政権の命運を託している。自民党内では、10月24 日に予定される参院補欠選挙に合わせた「24日投開票説」がにわかに浮上してきた。

 五輪大会中はもちろん、ポスト五輪でも感染拡大をいかに阻止できるかが菅政権の命運を握る。 (敬称略)

【政界】ワクチン次第で任期満了選挙の可能性も 衆院9月解散を狙う菅首相が抱える内憂外患

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