2021-08-13

【政界】追い込まれた菅首相が無投票再選? 総裁選で透ける自民党実力者の思惑

イラスト・山田紳



「与党で過半数」の思惑

 月刊誌『Hanada』の8月号に前首相の安倍晋三とジャーナリストの櫻井よしこの対談が掲載された。その中で安倍は衆院選の勝敗ラインを「与党で過半数を獲得すれば、それは明確な勝利」と明言した。

 衆院の定数は465議席で、過半数は233議席。17年衆院選で自民党は284議席、公明党は29議席の計313議席を獲得した。

 今回、公明党の議席を同数と仮定すると、自民党は80議席減らしても過半数を維持できる。安倍が設定したハードルは決して高くないことがわかるだろう。

 5月に早々と菅支持を表明した安倍にもまた、したたかな計算がある。出身派閥の細田派には有力な「ポスト菅」候補がいない。同派は衆院選後に安倍派に衣替えすると目されており、今は菅を支えつつ力を蓄える局面と割り切っているようだ。

「安倍会長になったときに何人の勢力なのかが重要」という周囲の声に押されるように、安倍は細田派衆院議員の選挙区に積極的に足を運ぶ。

 一方、与党で過半数をクリアしても、自民党が大幅に議席を減らせば不満は確実に噴出する。来年夏には参院選が控えており、菅が続投するとしても、執行部の刷新は避けられない。そこで細田派か麻生派から次の幹事長を送り込み、政権の主導権を二階派から奪う。これが安倍のもう一つの狙いだ。

 安倍と二階は都議選中の6月30日夜、東京都内で会食している。細田派の柴山昌彦、二階派の林幹雄の両幹事長代理が同席。両派が競合する複数の小選挙区の公認問題を巡って意見交換したとされる。

 しかし、二階の周辺は「幹事長は、安倍さんが次の総裁選に出る気はないという心証を得たのではないか」と推測する。安倍は退任後、再々登板を「まったく考えていない」と否定してきたが、体調はすっかり回復し、党内では待望論が絶えない。

 学校法人「森友学園」への国有地売却問題や、安倍が首相時代に主催した「桜を見る会」の問題が今も尾を引いているとはいえ、菅や二階にとっては最大の気がかりだ。

 安倍の参戦さえなければ、総裁選が衆院選より前になっても菅の再選に支障はなく、特例による総裁任期延長という裏技を無理に使わなくて済む。ややうがった見方になるが、「総裁選は予定通りに」という先の二階の発言とも符号する。

 7月17日、読売テレビに出演した菅は総裁選について「総裁として出馬するというのは、時期が来れば当然のことだろう」と述べた。ここまで明確に再選に意欲を示したのは初めてだ。菅の中では政治日程が固まりつつあるのではないか。

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