2021-08-03

米テキサス州オースティンから指揮 【リクルートHD 新社長】出木場久征の世界の何十億人に利用してもらう人材サービス戦略

リクルートホールディングス新社長 出木場 久征



ハイテク企業のアグレッシブな生き方

 テキサス州の州都オースティン市は人口約84万人の街だが、今、全米で『一番住みたい街』として人口流入が続く。
 同州で大きな都市と言えば、国際空港もあるダラスやヒューストン、サンアントニオといった所だが、同州中央部に位置するオースティンに今、有力企業が続々集結しようとしている。
 テキサス州はもともと石油資源に恵まれ、石油メジャー最大手のエクソンモービルが同州アービングに本拠を構えていた。そうした伝統企業に代わって、ハイテクや最先端ビジネスを追求する新興企業群が特にオースティンに集まろうとしている。

「例えば、EV(電気自動車)のテスラがオースティンに本社を移すとか、オラクルが移ってくるとか、あとはグーグルやフェイスブックなどITプラットフォーマーといわれる企業がテクノロジーオフィスを作ろうとしたりしています」

 もともとコンピュータのDELL(デル)や半導体生産のAMCなども拠点を構え、産業集積が進んでいた。
 工業大学として全米を代表するテキサス大学オースティン校があるのも強み。同州南部でメキシコ湾に臨むヒューストンはNASA(米航空宇宙局)の宇宙船打ち上げセンター(基地)があるが、オースティン校は宇宙開発の拠点校にもなっている。
「われわれもそこのトップのコンピュータサイエンティストなどをどしどし採用しているので、オースティンにベースを置いているんです」と出木場氏。

 コロナ危機は世界規模で生き方、働き方の変革を促した。
「ええ、リモートで働くなら、米国でも別に、(最先端企業が集中する)サンフランシスコで働く必要はないよねと。『テキサスは所得税がないし』と、移住してくる人が増えた。ニューヨークとかロサンゼルスなどの大都市から移り住んでくるんです」

 米国のダイナミズム(活力)を感じさせる人口動態である。
 出木場氏の住むオースティンの住宅価格はここ1年で前年比、「30%から40%上昇した」という。それでも、サンフランシスコなどの家賃と比べて3、4割は安いので人口流入が増える。

 米国もコロナ禍に苦しんだ。昨年は感染者数が急増し、ロックダウン(都市封鎖)を実行するなどもしてきた。しかし、今年初めからはワクチン接種を急ピッチで実行。経済再開も早い。

 米国の場合、リモートワークへの切り換えも早い。
「ええ、オンラインで働けるとなったら、そちらを選択する働き方がものすごく増えている。その点、日本はちょっとスピードが遅いというか、いわゆるリスクをあまり取らないですよ
ね。セキュリティだとか、やはり会社に来てもらわないと、仕事をしているかどうか分からないとかね。そういう所が、アメリカの場合は成果主義でこういうふうにできたら、いくら払うという働き方で、リモート方式もなじみやすいんですね」。

 人の移動のダイナミズムもそういう米国の社会風土から生まれているということであろう。

コロナ禍で気付いた事

 今回のコロナ危機の教訓は何か? また米国からグローバル世界を見つめ、日本の立ち位置を考えていて思うことは何か?

「前期(21年3月期)は売上、利益という意味では絶好調というわけにはいかない状況でしたが、2つ得られることがありました」と次のように要約する。

「1つは、やはり非常時で厳しい状況にあったにもかかわらず、前回のリーマン・ショック
とか、その前のドットコムバブル崩壊、さらに1990年代のバブル経済崩壊という時に受けたわれわれのダメージと、今回のコロナ危機でのダメージは違います。今回は、お金がなくなってしまうとか、そういう状態にはなりませんでした。また、われわれがポートフォリオを海外も含めて、ビジネスをかなり広げていたことによって、ビジネスの弾力性というか、底堅さみたいなものが出てきました」

経営のグローバル化、経営資源のデジタル化で、経営体質の弾力性が高められ、底堅さが確認出来たということである。
 もう1つは、「最先端テクノロジーを使うという経営戦略がコロナ危機で加速されたこと」
と出木場氏は語る。
『インディード』などのテクノロジーを使っての各事業の展開。求人側の採用戦略、もしくは求職側もテクノロジーを活用して、仕事を探す、仕事を見つけるというプロセスを「非常に簡単にしていく」という戦略を出木場氏らは立ててきた。こうした動きも、コロナ危機下で加速したということである。

 ただ、今回のコロナ危機で、欧米や日本との間で、コロナ対策や経済活動のスピードの違いがなぜ出てきたのかということは気懸りである。
「ええ、これは危機のたびに強くなっていくアメリカと、一方、日本は低成長の企業が多い
ままで、まだたくさん残っているという現実ですね」


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本誌主幹 村田博文

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