2021-07-20

【モノを運ぶプロフェッショナル】 ダイフク・ 下代博の『コロナ禍でも生産を止めない物流システムを』

ダイフク社長 下代 博



半導体工場のマテハンが大きな収益源に

 ダイフクの収益源には、これまで述べてきた物流センターともう1つ、半導体分野がある。

半導体工場の搬送・管理システムづくりを請け負う仕事である。
 一見、物流センターと半導体工場とでは、かけ離れたものに見えるが、両者に共に不可欠なのがマテハン。モノを運ぶ機器と、保管やピッキングなど、いわゆるマテハンの技術やシステムである。

 デジタルトランスフォーメーション(革命)が世界規模で進む今、それを支える半導体産業の重要性がクローズアップ。最先端半導体を国家戦略として捉え直す動きも、米国はじめ各国で高まる。

 経済産業省も今年6月、半導体産業やデジタル産業を国家戦略として推進する『半導体・デジタル産業戦略』を取りまとめた。
 その中で、半導体は5G(第5世代移動通信技術)、AI(人工知能)、IoT(全てのモノがインターネットにつながる)、自動運転、ロボティックス、スマートシティづくりなどのデジタル社会を支える重要基盤とし、安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術──と同省は位置付けている。

 今、半導体の量産体制は回路線幅5ナノ㍍(ナノは10億分の1)という“超極小”の世界で進められている。半導体受託生産では、最大手の台湾・積体電路製造(TSMC)と韓国・サムスン電子などがシノギを削る。5ナノの生産が2020年に始まったかと思うと、米IBMは「2ナノを開発した」と発表するなど、競争が激しい。

 ナノスケールの小型化は経済競争や国家の安全保障に関わるという各国の問題意識である。

 今はロジック(演算)の半導体で5ナノの世界だが、この5ナノの工場運営をマテハンが支える。そのマテハンの役割は実にきめ細かく、寸分のミスも許されないような仕事の連続だ。半導体製造装置の中の“モノの移動”について、下代氏が語る。

“モノの移動”を担う使命感に…

「半導体の製造装置。ああいう四角い真っ白な箱の中は見えないですけれども、あそこにウェハーを何十枚と入れたカセット、FOUP(フープ)と呼ばれるカセットを供給する。そこからウェハーを1枚ずつ中で取り出して、それに印刷して、露
光しながらやっていく。そして次の工程に送る。そのためにまた、カセットに入れる」

 半導体製造に不可欠なクリーンルーム。半導体をつくるための原材料、部材をレールに乗ったビークル(台車)で天井搬送し、それを下ろしたり、また持ち上げたりという搬送システム。
 途中、一時貯蔵するためのストッカーに入れ、そこに窒素を注入して劣化を防ぐという作業も必要。

「大きな工場ですと、200㍍×400㍍位の規模。そうした工場は製造装置なども含めて、1・5兆円位の投資になる。そういう工場が3棟位建っているという所で、5ナノという最先端の半導体が生産されています」と下代氏。

 同社が担うのは搬送設備。
「ウェハーの入ったFOUP(カセット)を運ぶビークルという台車が工場内に1200台走っています。それこそ縦横無尽に、ですね」
 半導体の製造過程は実に複雑。前工程と後工程とに分けられ、前工程だけで約600工程。後工程を入れると800工程になるといわれる。1つの半導体製品が出来上がるまでには2か月から2か月半かかるといわれるのも、これだけ多くの工
程を抱えるからだ。

「半導体の製造装置は世界にも日本にもすばらしいメーカーさんがいて、世界トップの水準を行っていますけれども、半導体の装置がたくさん並んでいても、われわれの機械が止まってしまって、システムが止まれば、その半導体工場は止まるんです。ですから責任重大で、止めてはいけないと」

『ダイフクらしさ』の追求

 同社は物流システム・マテハン機器で世界1の座にある。
 米国の雑誌『Modern Materials Handling』は毎年、マテリアル・ハンドリング・システムのトップ20を選んでいるが、2020年度もダイフクはナンバーワンに選出された。

 7年連続のトップである。
 1位はダイフク(売上高約45億4000万米ドル)、2位は米国のデマティック(同32億2600万米ドル)、3位はドイツのシェーファー(売上高31億2000万米ドル)、以下4位はオランダのファンダランデ、5位は米国のハネウェルインテリグレーテッド、6位は日本の村田機械という順位。

 同社の強みは、その総合力にある。同じマテハンといっても、フォークリフトとか起重機とか、それぞれの専門分野で勝負するメーカーもある。
「はい、空港のバゲージシステム、乗客の皆さんの手荷物を運んだり、あるいは自動倉庫の搬送システムとか、運ぶもの、そして場所もシチュエーションも違ってきます。ただ、マテハンが必要という意味では一緒です。ですから、われわれは運んだり、一時ストックして保管したり、あるいはその商品をピッキングしたりとか、そういう『物』というものをこれからも詰めていきたい」
 問題から逃げない。諦めない─。

1937年(昭和12年)の創業から84年。先人たちが常に物流システムの最先端を追ってきたDNAを受け継ぎ、さらに強化しながら、「ダイフクらしさを追求していきたい」と下代氏。コロナ危機下での自分たちの使命の実践である。


本誌主幹 村田 博文

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