2021-07-18

【政界】第5波阻止に全力 総裁再選を目指す菅首相に「胸突き八丁」の夏

イラスト・山田紳



追い込まれた小池


 ワクチン接種が軌道に乗り始めると、世論にも軟化の兆しが出てきた。尾身提言の翌6月19日の毎日新聞の調査では五輪を「無観客で開催すべきだ」が5月の13%から31%に増え、5月には40%だった「中止すべきだ」が30%に減った。同19、20両日の朝日新聞の調査でも五輪を「今年の夏に開催する」が34%で最も多く、「中止する」の32%をわずかに上回った。

 大会組織委員会、政府、東京都などは6月21日の5者協議で、五輪の観客上限を会場定員の50%以内で最大1万人と決定。これに合わせて、菅は大会期間中に緊急事態宣言が出た場合は「無観客も辞さない」と明言し、都知事の小池百合子も足並みをそろえた。尾身ら専門家の意見を一部採用した形にして、もしもの場合の予防線を張ったと言える。

 それでも、五輪開催が菅にとって政治的賭けであることに変わりはない。国立感染症研究所の試算によると、インド由来の変異株の影響が小さくても、五輪期間中の7月後半から8月前半にかけて緊急事態宣言の再発令が必要になる可能性がある。五輪に伴って人出が増えれば、再発令の時期はさらに早まるという。今後、ワクチンが普及しても安心はできない。

 公明党代表の山口那津男は「オリンピックの中止を叫んでいた政党もあるが、極めて非現実的な主張であり、国民の不安をあおりかねない」と立憲民主党や共産党をけん制したが、五輪を機に感染が再拡大したら、批判はそのまま与党に跳ね返ってくる。

 菅にはもう一つ関門があった。7月4日投開票の都議選だ。自民党は2017年に歴史的惨敗を喫しており、今回も苦戦するようだと、衆院選を前に「選挙の顔」を求めて総裁交代論が噴き出しかねなかったからだ。

 6月中旬、ある情勢調査の結果が永田町に一斉に出回った。発信源は自民党だとされる。

 それによると、自民党は48~55議席の獲得が見込まれ、都民ファーストの会は6~19議席程度。都民ファが55議席、自民党が23議席だった前回選挙と結果がほぼ入れ替わるという衝撃的な数字が並んでいた。自民党の閣僚経験者は「倍増の46議席なら御の字だろう」と控えめに喜んだが、都民ファに勢いがないのは明らかだった。

 前回、都民ファと組んだ公明党は3月、一転して自民党との選挙協力で合意した。当時の記者会見で高木陽介都本部代表は「(都民ファは)組織として、なかなか厳しい現状がある」と理由を説明。端的に言えば見限ったということだ。

 こうした事情を勘案すると、小池が都民ファの特別顧問でありながら、一向に都議選への態度を表明しなかったのもうなずける。都民ファに全面的に肩入れすれば、政治的に大きなダメージを負う恐れがあると計算したのだ。

 分岐点は20年7月の都知事選だった。自民党都連には主戦論が強かったが、幹事長の二階俊博の「都民の支持が圧倒的にあるわけだから、自民党が小池さんを応援することに何ら異議はない」という鶴の一声で対立候補擁立を見送り、小池は悠々と再選を果たす。

 以後、同党は小池都政との融和路線を進め、今や小池は都民ファ、自民、公明の3党に支えられている。都民ファが大幅に議席を減らせば、都政運営は必然的に自公頼みにならざるを得ない。

 自民党内には一時、小池が都議選前に五輪の中止を打ち出して流れを変えようとするのではないかと警戒する声が出ていたが、杞憂に終わった。都議選の告示が迫った6月22日、都は、小池が過度の疲労で公務を一時キャンセルし、静養すると発表した。その裏に何らかの意図があるかどうかは別にして、都民ファが窮地に立たされたのは間違いない。

【株価はどう動く?】今後の株式市場は「波高き相場」で、目先は要警戒か

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事