ワクチン接種は「点」から「面」へ
─ コロナはワクチン接種が進んでいますが、今後をどう見通していますか。
河北 コロナの感染拡大は、ワクチンが普及すれば抑えられると思います。ただ、集団免疫、あるいは社会免疫を獲得するまではワクチンを接種し続けなければならないでしょうし、今後は1年に1回くらいは接種するものになると思います。
今はまだ、ワクチンでできた抗体がどのくらい継続するのかがわかりませんから、1年に1回くらいの接種が妥当ではないかと思います。
─ 改めて、コロナ禍でインフルエンザの感染が激減したという相関関係が何なのかは考えさせられますね。
河北 ええ。今回のコロナ禍を改めて振り返ってみると、感染が拡大したのが20年の2、3月頃で、21年6月までに約15カ月が経っています。
この間に日本人は約77万人が感染し、1万4000人が亡くなりました。この数は各国との人口対比で圧倒的に少ない。
これは15カ月の間に起きたことですが、例年のインフルエンザの流行期間は10月末から3月半ば頃までの約5カ月間で、この期間にしか流行しませんが、数百万人から1千万人が感染し、3000人から1万人が亡くなってきました。
インフルエンザの数百万人から1000万人の感染者というのは、77万人というコロナの感染者数に比べて遥かに多い数字です。亡くなる人も5カ月で3000人から1万人に対し、コロナは15カ月で1万4000人ですから。
─ コロナ感染を抑制するための生活が、結果的にインフルエンザを抑制することにつながったと。両者の感染者数、死亡者数の差も冷静に見ていく必要がありますね。
河北 そう思います。加えて、先程のファクターXに加えるとすれば、日本人の習慣です。日本が諸外国のようにロックダウン(都市封鎖)をせずとも自粛で何とかなっているというのは、まさしく日本人の文化です。
ですから、日本は科学よりも文化、生活習慣、教育といったものを優先してきたのだと見た方がいいと思うんです。玄関で靴を脱ぐといったことです。科学としてのワクチン開発や、変異型対応も含めた特効薬の研究は今後も続けていかなければいけないと思いますが、感染症に対応するのは医学や薬だけではありません。生活習慣が非常に大きいということが言えるのではないでしょうか。
政府を始め、このことを感じている人は多くいると思います。ですから、日本がロックダウンせずに自粛だけで済んでいますし、感染者数が比較的少ないことについて何か奥歯にものが挟まったような言い方しかしないという背景には、こういう理由もあるのではないかと思います。
そうであれば、一番のスポークスマンである菅義偉首相が、今のような話をしっかりと国民にすべきです。
─ もっと発信が必要ですね。自分たちの行動や習慣で感染が抑制されているとなると、国民は非常に納得するでしょうし、東京オリンピックの開催についても前向きになるのではないでしょうか。
河北 そう思います。ただ、パブリックビューイングのようなものは非常に「密」になりますから、今はやらない方がいいと思いますが、観客をかなり制限してのオリンピックは、ここまで来たらやるべきです(政府は首都圏を中心に多くの都道府県で、無観客での開催を決めた)。
その理由の一つは中国です。中国は22年2月に北京オリンピックを控えています。もし、東京オリンピックが中止になれば、中国は間違いなく、「中国こそがコロナに打ち勝ったオリンピックを開催した」ということを言うでしょう。
民間企業の力も活用して
─ 人類の知恵として、コロナ禍でもやり抜くことが大事だということですね。ただ、そのためのワクチン接種は立ち上がった後は迅速に進んでいますが、開始当初混乱が見られました。これをどう見ますか。
河北 大規模接種会場については失敗だったと言わざるを得ません。「GoToキャンペーン」のように、遠方から東京に集まって大規模接種会場で打つといった行動は取りづらい。それよりも小さい拠点を配置することが大事です。
病院もそうですが、政策は「点」では駄目です。「線」にし、さらには「面」にしなければいけません。今、国の政策は全て「点」になってしまっており、しかも後手後手に回っている。
大規模会場を「点」で増やすのではなく、多くの診療所で接種できるようにすれば「線」になり、「面」になります。そして広く一般に、誰でもいいから接種に来て下さいと。
その時のディストリビューション、調達はなかなか難しいと思います。そうであれば政府の人間が考えるのではなく知見を持つ民間企業、例えばヤマト運輸の知恵を借りればいいんです。そうすれば「面」になります。