このピンクカメハメハ購入には面白いエピソードがある。
木村が所有する馬は10頭で、木村は阪神馬主協会に参加している。所有する馬の登録を妻の久子と一緒にやっているつもりなのだが、うっかりして久子の登録馬がいなかった。
すると、阪神馬主協会から「奥様の登録手続きが長いこと放置されたままです。このままだと奥様は除名ということになります」という通知があったのだ。
これまで夫婦一緒に仕事も始めてきて、趣味の分野でも一緒なら、ということでやってきたのに、これはいけないと「女房の馬をあわてて探し始めたんです」と木村は言う。
そこで森秀行厩舎に相談すると、「面白い馬がいますよ」という返事。
父は名馬リオンディーズ、母はタバサトウショウ。母・タバサトウショウは、2005年の宝塚記念などを制したスイープトウショウを産んでいる。
ちなみにスイープトウショウは、2005年の『JRA賞最優秀4歳以上牝馬』に選ばれ、生涯獲得賞金は7億4千万円を超えている。
ただ、気になるのは、ピンクカメハメハは父が5歳の時、母が25歳の時に産まれたということ。両親は大変な年の差婚である。母馬が25歳の超高齢出産だったこともあって、ピンクカメハメハは売れ残っていた。
競馬界では、過去に両親のこうした“年の差婚”でも立派な戦績を残した馬もいたということで、関係の話も聞いて、木村は「そんなら、その馬にしましょう」と購入を決めた次第。
カメハメハという名前は、1700年代から1800年代にかけて、ハワイを治めていたカメハメハ大王にあやかって名付けた。
昨年の新馬戦でダントツの力強さを見せつけたピンクカメハメハは1年後のサウジダービーで見事勝利をおさめた。
だが、6月20日、東京競馬場で行われたユニコーンステークスに出走したピンクカメハメハは、レース中に急性心不全を発症し、転倒するという悲劇に見舞われた。即死だったという。
「可哀想なことをしました」と木村も落胆した様子を隠さない。やはり両親の“年の差婚”が響いたのであろうか。
「勢いよく走り出したので、応援していたら突然倒れて……。日本のダートで初めてのレースで期待していたんですが」と、早逝を惜しむ木村。
「調教師さんが言うには、あの出だしのスピードでついていったら優勝していましたよと。その言葉を聞いて、余計に惜しいことをしたと思います」と、ピンクカメハメハの健闘を称える木村であった。
強さと優しさ――。共に経営者に求められる要素である。
強さは逆境に遭遇した時でも耐え抜く力。優しさは人それぞれに能力の違いがある中でその人にチャンスを与え、その潜在力を掘り起こす力である。
ピンクカメハメハは3年の短い生涯だったが、力いっぱい疾走していった。人と人の出会いもそうだが、人と馬の出会いにも心を込める木村の“強さと優しさ”である。 (敬称略、以下次号)