2021-07-11

≪子宮頸がん≫の現状と今後の対策 青木大輔・慶應義塾大学医学部教授

青木 大輔・慶應義塾大学医学部教授


ワクチン接種率が低い理由



 ―― 毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかるということですが、近年、患者数が増えていると言いますね。この原因は何なのですか。

 青木 確かに増えていると言えば、増えているのですが、これにはすごく大きなマジックがあるんですね。統計的には2012年とか、2010年代半ばあたりから急にがん患者が増えているように見えるかもしれませんが、それはこの頃に病理的な分類が変わったのです。

 前がん病変からがんに移行する部分の境界線のあたりの分類が変わったために、以前は前がん病変とされていたものが、がんに組み入れられてがん登録されるようになった。そういう数字上のマジックもあるということは覚えておいてください。

 しかし、浸潤がんも増加しています。浸潤がんについては、病理学的な診断分類は変更されていませんので、増加していることは確かです。

 ―― なるほど。ここは冷静に見ておく必要がありますね。

 青木 はい。先ほど、子宮頸がんはそれぞれの段階で戦略があると申し上げました。がんに対しては、一次予防、二次予防という考え方があり、一次予防というのは病気にならないようにしましょうというものです。

 例えば、タバコを吸うなとか、いろいろあるんですが、子宮頸がんの場合はウイルスが原因ですから、ワクチンを打ちましょうということになる。日本では2013年度から予防接種法という法律に基づき、HPVワクチンの接種が定期接種化されました。この時、ワクチンの接種率が一気に高まり、ある年代では70%くらいの接種率になりました。

 ―― 何歳ぐらいで接種することが望ましいのですか。

 青木 定期接種は原則として中学1年生が対象になっています。このウイルスは性的接触により子宮頸部に感染しますので、性交を体験する前に打つことが予防効果としては抜群です。感染してからではワクチンの効果は期待できません。

 そういうことで定期接種化されたんですが、副反応ばかりをセンセーショナルにクローズアップし、ワクチンの効果に重きをおいた報道がなされなかった影響からか、一気にトーンダウンして、ワクチン接種の積極的勧奨を中止することになってしまいました。

 マスコミで報道されているような多様な症状の原因がワクチンだという科学的な証拠はないのですが、現時点でも定期接種の対象になっているにもかかわらず、積極的な接種勧奨の差し控えは今でも続いていて、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で日本の接種率は最低ランク。現在は1%にも満たないです。

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