終わりの見えない治療「同じように働いている同僚の男性はどんどん子どもができている。同じように働いていると、貴重なライフステージのタイミングを逃すのではないかという思いがあり、仕事が面白い時期でしたが、早めに不妊治療に着手しようと会社を辞めました」
角田さんは東京工業大学大学院理工学研究科卒業後、ソニーに入社。3Dテレビなどデバイス開発に従事した後、新規事業提案制度を活用して、数種類の香りを好きなときに楽しめるスティック型のアロマディフューザー『AROMASTIC』を開発するなど活躍。順調にキャリアを積んできた。
だが、出産を考え、30代前半で退社。不妊治療を続けながら、フリーランスで企業の新規事業立ち上げを支援してきた。
「会社に交渉すれば辞めなくても良かったのかもしれないですが、キャリア女性の一番の悩みどころは『治療(育児)もしたいけれど、仕事もしたい』ということ。ただ、不妊治療は育児と違って終わりが見えず、その間、仕事をおざなりにしなければいけないことに皆さん精神的に悩まれている。迷惑を掛けたくないという思いもあり、会社に強く出られない方も多いんです。プレッシャーにもなるので、そもそも治療していることを知られたくないと、皆さんシレッと辞めていってしまう。わたしもその中の1人でした」
経験者でないとわからない思いもある。角田氏は、そうした実体験を企業向けの啓発コンテンツの制作やセミナー開催につなげ、自らが講演者となって、社会における不妊治療の理解促進に努めている。
また、企業の新入社員研修などを想定した〝ライフステージと生殖医療〟などのコンテンツの提供も予定している。
「人生100年時代ですが、残念ながら寿命が延びても、生殖の適齢期は30歳前後で変わっていないんです。事実を知った上で、どんな選択肢を取るかを考えていただくためのコンテンツです」と角田氏。
人生100年時代の女性の医療とは何か──。自社サービスの構築だけでなく、社会への啓発活動も含めて、女性医療、ひいては生き方支援に動く角田さんである。
メルカリ出身起業家の挑戦