2021-07-10

【人気エコノミストの提言】投資教育~現金の呪縛を解き放てるか

2022年度から日本の高校で投資教育が始まる。今までお金について取り扱っていたのは家庭科の授業だった。そこで教えられるのは、預貯金、保険などのお金の管理や、多重債務といった消費者信用教育だった。

 しかしこれからは株式、債券、投資信託などの金融商品を扱い、将来に備えた資産形成の重要性を説くそうだ。かなり考え方が変わる。

 日本人は善である労働で得た現金を財布に入れて大事にしまっておく。

 借金や投資など、滅相もない。労働で稼いだお金の中で消費する。ある意味、現金という呪縛の中で生活している。

 私は大学を卒業して働き始めた時、この価値観はしっくりきていた。小さい時から親や学校の先生に「真面目に働いてお金を稼ぎなさい」、「株などの投資で稼いだお金はよくない」と、ことあるごとに言われ、この価値観が植え付けられていた。

 もっと前からコツコツ投資をしていたら、現在、今とはちがった資産形成になっていたはずだ。現金の呪縛がもっと早く解けていたらよかったのにと思う。90年後半からゼロ金利の世界が20年以上も続いている。預貯金ではほとんど利息が付かない中、少子高齢化の影響で社会保障費などの負担ばかり増えるので、どうしても資本市場と付き合う必要が出てくる。

 日本人は長寿である。健康で長く働き続けることは大事だが、長期投資により若い時から労働以外で老後資産を形成することも重要になる。労働依存の一本打法から、金融所得という新たな選択肢が増えれば、今後の働き方も変わってくるはずだ。

 その点、日本でも最近若い人で投資を始める人が増えているのは、よい傾向だと思う。つみたてNISAやiDecoといった長期投資に有利な制度の創設や、金融庁を中心とした、働く世代に対しての金融教育の取り組みの成果が出始めている。

 投資教育が進む米国では経済活動の根本を小さな子供に理解させ、その中でお金が持っているレゾンデートルをきちんと教え込み、賢くお金と付き合う方法を叩き込まれる。

 その米国であっても、直近では給付金で手にしたお金で、若者を中心にゲームストップ株の乱高下を作り出した。

 日本ではこういう一つの失敗例が出ると、「ほら、やっぱり投資はダメだ」とネガティブな意見が強く噴き出すが、米国では投資を否定することはしない。規制を通じてどうやって健全な投資をさらに増やすかという議論をする。

 おそらく日本で投資教育を広げる最大の壁は、いま現金を貯めることがよいと心の底では思っている私のような親世代である。

 その親世代の労働や投資の善悪に関する考えを修正するためにも、実業家や民間金融機関のプロがどの程度教育に貢献できるかが重要になってくる。

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