2021-07-06

【なぜ、日本は非常時対応が鈍いのか?】三菱総研理事長・小宮山 宏の「有事への対応は『自律 ・分散・協調』体制で」



今後の時代のキーワードは「地球環境」と「格差」

「今は、産業と社会の転換点」─。小宮山氏はこういう認識を示す。1944年(昭和19年)12月生まれの76歳。東京大学工学部長などを経て、2005年第28代総長。

 氏はグローバルな視点で地球全体の課題、そして日本の課題を取りあげ、その課題解決への道筋を付け、提言し続けている。『地球持続の技術』(岩波新書)、『「課題先進国」日本』(中央公論新社)、『日本「再創造」』(東洋経済新報社)、そして『多様なナンバーワン作り―プラチナ社会への道筋』(財界研究所)といった著書。そうした著書のタイトルからも氏の問題意識がうかがえる。それは価値観の違いを認識しつつ、何とかソリューション(解決策)を掘り起こそうという前向き精神である。

 もっとも、現在のグローバル社会が抱える氏の問題意識は工学者らしく、現実を見据えてシビアである。「科学技術にLights and Shadows(光と影)はあります。だけれども、光をうまく出していくことが、逆に影をマスクする一番いい方法だと。今ならば、パンデミック問題がありますが、一番のカギはAI(人工知能)をどう活用していくか。AIを人類がどういうふうに使っていくか。この辺が一番重要な問題だと思います」

 そして、グローバリゼーションの〝光と影〟。グローバルでリベラルな秩序、国際体制は格差を産み、もはや破綻している─とする英国の歴史学者でありジャーナリストのニーアル・ファーガソン(Niall Ferguson)を引き合いに、次のような問題意識を見せる。

「今まで食べていた人たちが食べられなくなるという大きな問題」─。小宮山氏は18世紀の産業革命以降、技術の進展が既存の職業人の雇用を奪い、結果的に、『ラッダイト(機械打ち壊し運動)』を引き起こしてきたが、似たような運動は、米国のトランプ前大統領の出現を見るまでもなく、今日まで続いているという認識を示す。

 どう解決策を見出すか?

「グローバリゼーションのいい点はもちろんある」と氏は認めつつも、「国家というものがあって、国境を守って、人の移動もある程度コントロールしながら、自分の国のことを考えながらやっていく体制でないと持たないと思う」と国の役割も認める。

 変革は必要として、変化のスピードが速すぎることで、人々に戸惑いがあり、これが時に、大規模な反発に発展していく。

 そうした中で生ずる混乱を回避するには、「やはり教育だと思います」と小宮山氏は強調。新しい産業、ビジネスが起きれば、旧来の産業からは失業者も生ずる。その人たちが新しい仕事に就けるように、転職を助太刀する。そうした流れを認識して、転職政策を実施したものの、失敗例もあるとして、氏は次のように提言する。

「国がやろうとすると失敗するんですよね。第一、非効率です。それを民間にやらせて、成果に応じて金を払うみたいなやり方。やり方はいろいろあるけれども、そういう賢い転職の助太刀、それが鍵になると思います」

 今、〝モノの経済〟から〝モノでない経済〟に移行。デジタルトランスフォーメーション(革命)がそれを加速させ、その中でGAFAというITプラットフォーマーが誕生。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)にマイクロソフトを加えたGA
FAMの時価総額は約8兆ドルで世界全体の1割を占める。GAFAは新領域開拓に貪欲だが、コロナ危機に際し、「アップルやマイクロソフトが医療領域に参入する兆しがある」と語る医療関係者もいる。

 科学技術の進展は、人々に恩恵をもたらすが、一方で格差を生む。いわゆる〝光と影〟の問題である。「これを放っておくと、やはり人類破綻にいきます」と小宮山氏。

 次の経済を引っ張るものは何か──。それを考える上でこれからキーワードとなるのは「地球環境と格差」という小宮山氏の認識である。日本の出番はある。

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本誌主幹・村田博文

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