2020-12-17

SBIホールディングス・北尾吉孝社長が語るデジタル金融、地銀再編の姿とは?

北尾吉孝・SBIホールディングス社長

創業時の計画は具現化、先端テクノロジーを活用

 ─ 日本では菅新政権が規制改革に取り組むとして次々政策を打ち出していますが、どんな期待を持っていますか。

 北尾 私は菅さんには官房長官時代からお世話になっていますが、首相就任はよかったと思っています。なぜなら、安倍さんが急遽退陣された後、残された課題に取り組む最適任者は菅さんしかいないからです。

 安倍政権下の主要な国内政策である、ふるさと納税、インバウンド振興、NISA(少額投資非課税制度)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、さらには水害に備えたダムの事前放流の仕組みなど、まとめてきたのは全て菅さんです。首相就任後、矢継ぎ早に改革を打ち出されており、今後にも期待しています。

 ─ 米大統領選は異例の事態となっていますが、今後をどう見ていますか。

 北尾 トランプ大統領は票の再集計でできるだけ時間をかけて、できるだけ多く票を積み上げようとしています。負けが確定したとしても4年後を視野に入れている可能性があります。

 今回、見ていて気の毒だったのは、FOXニュースを除く米国の主要メディアはバイデン氏に肩入れし、各種世論調査もバイデン氏圧勝という結果になっていました。ところが、蓋を開けてみるとトランプ大統領も7300万票を超える得票数を得る大接戦となりました。

 ─ そのトランプ大統領の4年間をどう評価しますか。

 北尾 トランプ大統領は自身が掲げた「米国ファースト」、経済を立て直して株価を上げる、雇用を増やすといった公約に非常に忠実でした。様々な軋轢を生んだことは確かですが、その点は評価しています。

 ─ コロナ禍の中でのカジ取りについてお聞きしますが、SBIは厳しい業績の企業もある中、証券口座数で業界ナンバーワンで、今期も増収増益の見通しですね。

 北尾 私が創業の時に立てた計画は全て具現化し、想定通りの状況になっています。今後5年、10年と時間が経てば経つほど、当社の強さがさらに出てくるのではないかと考えています。

 例えばSBIホールディングスの連結業績を主要証券グループの連結業績と比較すれば、大和証券を抜いている状況ですから、想定通りに成長しています。他にも銀行は成長し続けていますし、保険も伸び始めています。ベンチャーキャピタルのSBIインベストメントはファンド規模、運用パフォーマンスにおいて日本で断トツの存在です。それぞれの会社が業界の雄になり、なりつつあるものも多くあります。

 ─ 創業時からネットが伸びることを想定していたと。

 北尾 ええ。時代の流れとして、インターネット、バイオテクノロジーが21世紀の潮流になると想定しました。そして金融業とインターネットの親和性は非常に強いものがあるということで、オンラインの証券、銀行、保険をやっていこうと。

 現状を見ると、想定通りにネットの力を発揮することができました。さらにここからコロナ禍の中でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速度的に進みますから、ますます我々の時代になっていくだろうと思います。

 創業20年で、まずネット上の生態系づくり、「フィンテック1・0」は完結しました。今はブロックチェーン、AI、ロボットなど最新テクノロジーを活用する「フィンテック1・5」、さらにはブロックチェーンをベースとした「2・0」に発展させていきます。

 ─ ブロックチェーンの可能性をどう見ていますか。

 北尾 我々は圧倒的に速いスピードでブロックチェーンを様々な分野に導入しています。フィンテック企業である米リップル社、米R3社とそれぞれ合弁会社を設立すると同時に、両社の外部筆頭株主になっています。早い段階で、グローバルスタンダードになり得る、いい企業と連携できたと思います。



リスクに備える「PTS」の重要性

 ─ 金融の新たなインフラづくりに取り組む上では戦いの連続だったと思いますが、どういう思いで進めてきましたか。

 北尾 私は「わが人生闘争なり」と言っていますが、徹底的に戦って今日まで来ました。中でも軋轢を感じたのはPTS(私設取引所)の設立です。東京証券取引所はPTSの育成、発展を阻害するような動きをし、金融庁もそれを改めるために力を尽くしてはくれませんでした。これは厳しい戦いでした。

 ただ、縦割りの打破など規制改革に挑戦してきたのが安倍さんであり、現在の菅さんです。省庁間の垣根を取り払い、国民経済的に見て正しいことをやろうとしているわけですから、大いに期待しています。

 ─ 終日取引停止にまで至った東証のシステム障害は、危機管理の観点でPTSなどバックアップ体制の重要性を浮き彫りにした感があります。

 北尾 終日取引停止などという事態を起こしては、次世代の国際金融都市を日本に誘致するのは難しくなります。現在、東証が日本の株式取引の約87%のシェアを握る一極集中で、PTSの育成も進んでいません。私はこの問題点を自民党の金融調査会でも強く訴えてきました。

 ─ 併せて、北尾さんは新たな資金調達手段であるデジタル証券、ST(Security Token)の流通市場を設立する構想も持っていますね。

 北尾 発行市場だけでなく、流通市場が必要だという考え方です。私は大阪・神戸地区を国際金融都市とする構想を持っており、そこにSTの取引所をつくりたいと考えています。

 ─ 関西に国際金融都市をつくろうという狙いは?

 北尾 コロナ禍は一極集中から地域分散型社会に移る流れをつくっています。大阪・神戸は地理的に近く、今後訪れるであろう外国人の生活圏を考えると一体で考えた方がいいだろうと。京都や奈良という日本の誇るべき観光資源にも近い上に、東京に比べて生活コストが安く、金融インフラも整っている。

 関西の地盤沈下が叫ばれて久しいわけですが、それを引き上げていくのが地方創生だと思います。また、堂島取引所は世界で初めて商品先物取引を行った場所です。そうした文化伝統も生かしていきたい。こうした強みを生かさないと全てニューヨーク、ロンドン、いずれは上海に取られてしまうでしょう。



デジタル金融商品をグローバル展開

 ─ 香港国家安全維持法が施行され、中国の影響力が増大する中、SBIは香港拠点の撤退検討を打ち出しましたね。

 北尾 私が撤退検討を打ち出したら、香港当局からすぐに「懸念するようなことはない」という手紙が来ましたが、多くの企業が撤退しようとしています。

 英国のEU(欧州連合)離脱でロンドンからは163兆円もの資金が流出すると推計されていますが、香港でも同様の事態になる可能性があります。

 象徴的だったのは、中国・アリババ・グループの金融会社・アント・グループの上場が、直前で当局の介入で延期になったことです。金融にとって最も重要なのは自由であり、監視社会はなじみません。

 ─ その意味で大阪・神戸の国際金融都市としての可能性をどう見ていますか。

 北尾 大阪も神戸も、自治体の方々は賛成してくださっていますし、この地域の地盤沈下を防ぐという意味でも、地域分散型社会をつくるという意味でも一番いいと考えています。

 もう一つ、大事なのは「次世代の」国際金融都市だということです。私はここ10年ぐらいの最も重要な金融テクノロジーはブロックチェーンだと考えています。そして我々は世界的なフィンテック企業に数多く投資していますから、彼らを日本に呼び込み、一大フィンテック拠点にしたいと思います。

 ─ グローバルを意識した取り組みですね。

 北尾 ええ。暗号資産のビットコインにしても世界中で取引されるグローバルな金融アセットですが、バックボーンにあるテクノロジーはブロックチェーンです。これからSTの時代が始まろうとしていますが、デジタル金融商品は全てグローバルに考えていく必要があります。

 例えば、我々はドイツのシュトゥットガルトのデジタル取引所に出資したり、シンガポールでデジタル金融商品の発行、流通含めた生態系を構築しようとしていますが、いずれも考え方は全てグローバルです。

 今はコロナ禍でできませんが、これまで私は徹底的なトップ外交を進めてきました。例えば、ベトナムのIT業界最大手のFPTとの関係も、私の著書を英訳して米国の学術出版社・ジョン・ワイリー・アンド・サンズから出版したものを読んだ経営トップから「感動した」という連絡が入ったことがきっかけでした。今はベトナム語でも私の著書が数冊出版されています。

 ありがたいことに、私の著書は英語を始め中国語、韓国語にも訳されて世界で読まれています。「ペンは剣よりも強し」と言いますが、それを実感します。



地銀再編が議論される中で

 ─ 北尾さんは若い頃から『論語』や儒学を学んできましたね。中国との関係づくりでも生かせるのではないですか。

 北尾 それは実感しています。私は儒学の知識を経営の様々な場面で生かしてきています。マネジメントに『論語』をどう生かすかという本も書いています。

 世界的に見ても儒教、儒学の精神を経営に生かした人はほとんどいないようで、中国最高学府の北京大学、清華大学や復旦大学のビジネススクールで講演を頼まれたこともあります。面白いのは中国の方々から「儒商」と呼んでいただいていることです。

 ─ 改めて、米中対立が続く中ですが、中国とはどう向き合えばいいと考えますか。

 北尾 中国の経済力は米国を凌駕する規模になっています。そしてコロナ禍では感染者が出たら街を封鎖して、全て検査をするという徹底ぶりで、普通の国にできることではありません。問題を最初につくった国ですが、他国よりもコロナを抑え込んでいる要因です。

 そして14億人超という人口を生かし、今は輸出よりも国内市場重視で経済を発展させようとしています。しかも、AIなど最先端技術にも強い。

 我々が親しい企業に中国最大の保険会社である中国平安保険がありますが、同社の子会社であるジャスダック上場の不動産会社・アスコットに我々が出資することを決めました。

 また、中国平安保険子会社のフィンテック企業・ワンコネクト・ファイナンシャル・テクノロジーとは合弁会社を設立していますが、彼らのAIテクノロジーは完全に日本を凌駕しています。日本はバイオテクノロジーを含め、改めて基礎研究に力を入れる必要があります。

 ─ 菅政権発足後、改めて地方銀行の再編が注目されていますが、北尾さんは地銀との連携を進めています。今後の展望を聞かせてください。

 北尾 我々は3年前に地方創生に取り組むに当たって、まず地域金融機関から取り組みました。我々が資本業務提携をした金融機関は、自ら変わりたいから力を貸して欲しいというところばかりです。日を置かずに10行と戦略的資本・業務提携することになるでしょう。

 そしてこれまで出資した島根銀行、清水銀行などは、すでに様変わりに業績が改善しています。資産運用にとどまらず、先方の店舗の中に、当社グループのSBIマネープラザとの共同店舗をつくるなど、様々なことに一緒に取り組んでいます。

 ─ 資金だけでなく「人」も出していくことになると。

 北尾 そうです。我々の資源にも限界がありますから、20年4月に三井住友フィナンシャルグループと戦略的資本・業務提携を結びました。その中ではSMBC日興証券がSBIマネープラザ株式の33・4%を取得することを決定しています。地域金融機関の対面証券ビジネスにおいて、共同展開の早期実現・人材交流を図っていきます。

 ─ 今後、SBIグループの戦略を支える人材づくりもますます重要ですね。

 北尾 今、「戦略こそ全て」というテーマで後進のための本を準備しています。グループ、そして日本の若者に向けて、戦略こそが成功の最も重要なファクターであることを訴えようと考えています。戦略は一度出して終わりではなく、時代を見据えながら柔軟に次々と打ち出していくことが重要なのです。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事