2021-06-18

【経営は誰のためのものか?】資生堂・魚谷雅彦の原点回帰論「日本的価値や良さで、グローバル市場に挑戦」

魚谷雅彦 資生堂 社長兼CEO

有事の際、自分たちのビジネスは何ができるのか─。コロナ危機の非常事態宣言下で、お客と接触できない状況にあって、資生堂は「お客様に安心・安全を」と店頭にマスクや消毒液を届け、地域の医療従事者へ消毒液を無償提供することから着手。コロナ危機はこの1年余、事業にとって厳しい環境を与えているが、一方で気付きも与えてくれた。「結束力を高められたし、この会社で仕事をしていくことの意義をみんな考えてくれるようになった」と社長・魚谷雅彦氏。魚谷氏はこの有事を生き抜き、ポスト・コロナを見据えたとき、世界に勝つためにも、自分たちの使命と役割を発揮する事業に絞り込もうと、ヘアケアなどの日用品事業(トイレタリー)の『TSUBAK(I ツバキ)』などを売却。高級スキンケアなどの化粧品メーカーとしての“専門性”、“独自性”を追求していこうという判断。『世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー』を目指す魚谷戦略とは─。


コロナ危機下、社員の潜在力を掘り起こす

 コロナ危機の中をどう生き抜くか─。

 コロナ禍の収束へ向けて、ワクチン接種が進行中。緊急事態宣言が何度か適用され、緊張感の続く日々。自分たちは今、何をすべきか、また何ができるのかという切り口で資生堂社長・魚谷雅彦氏はこの1年間の行動に触れ、「わたしたちのビジネスの中で何ができるのかを考えるいい機会になりました」と次のように語る。

「1つは、もちろんお客様、あるいはわたしたちの店頭で働く社員の健康を守るということで、コロナ危機が始まってすぐ、日本の大手企業の中ではおそらく1番か2番位に、在宅、あるいは店頭にマスクを届ける、消毒液を届けるということをしました。

わたしたちの工場ではアルコールを使っていますが、(消毒液になる)高濃度の処方は持っていなかった。それを那須(栃木)の工場で開発をして、厚労省や経産省も素早く認可に動いてもらいましてね。また商品の容器とか印刷とかも、取引先もみんなものすごく協力していただいて、もう考えられないスピードで準備できたんです。市場に出すのではなく、まず医療従事者の方々に無料で寄付していきました」

 マスクが足りない、消毒液が足りないで始まった今回のコロナ危機。平時では考えもつかない事が次々と起き、パニックに陥ることがある。

 自分も感染するのではという不安から、感染者の治療に当たる医師や看護師、それに救急活動に当たる消防士などへ、誹謗中傷の言葉が投げかけられた。心痛む光景が飛び出し、そうした連鎖がまた社会を荒らす。

 資生堂は本来、消毒液をつくる会社ではない。化粧品の製造の過程でアルコールを使うということ。それも〝指定医薬部外品〟であり、医療用で使用するには高濃度品でないといけない。

 それが、感染者が急増する緊急事態、有事を迎えて、日々感染リスクと向かい合う医療従事者の活動に不可欠な消毒液が不足しているという現実の前に、「消毒液をつくろう」という声が自然に社内から沸き起こってきた。

「もともと、消毒液を売るビジネスをしている会社ではないんですが、自分たちの工場のラインを使って作ろうという考えが、本当に現場から出てきましてね」

 社長の魚谷氏も、自発的に社員の間からこうした声が出てきたことに嬉しい様子。
「医療従事者の方々って、僕の知り合いにも多いんですが、この人たちは本当に恐怖感を持ちながら、使命感だけでやっているのでね。この人たちに何かできないかなと、朝ジョギングをしていて、何かしなきゃいけないと思いついて、すぐに興奮ぎみに、担当者の人たちに、『何か考えられない? 』って聞いたら、みんな、『是非やります! 』とすぐ動いてくれたんです」

 トップダウンとボトムアップの連携である。

 資生堂は、『ハンド・イン・ハンド・プロジェクト(Hand in Hand Project)』を立ち上げて、現在実施中(期間は2月1日から6月30日まで)。

 Hand in Hand。文字通り、人と人が手を携えるという意味。
 具体的には、消毒液とかハンドクリーム、ソープ(液体石鹼)など22品目のどれかをお客が店頭で購入した場合、そこから出てくる粗利から、物流費などを引いた利益をすべて医療従事者に寄付するというもの。

 このコロナ危機では、業績面で確かに打撃は受けたが、明日に向けて得られるものも大きかったということ。

 2020年12月期は売上高9208億円(2019年12月期は1兆1315億円)、経常利益は149億円(同1138億円)、純利益は116億円の赤字(同は735億円の黒字)。

 営業利益段階で、何とか黒字を確保したものの、最終利益段階で赤字になった。

 このコロナ禍を踏まえて、今期(21年12月期)は増収増益、最終利益でも黒字を見込む。
「確かに、事業環境は厳しいけれども、このコロナ危機で結束力もできたし、この会社で仕事をしていくことの意義をみんなが考えてくれるようになった」と魚谷氏は活路が開けたと語る。

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本誌主幹 村田 博文

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