2021-06-16

JFEホールディングス・柿木厚司が進める「脱炭素」戦略 悪者・CO²を再利用する製鉄法を開発へ

柿木厚司・JFEホールディングス社長



海外企業との提携も技術を生かして


「我々JFEは社会から必要とされる存在でありたい。そのために我々に残された武器は技術力」と柿木氏はいう。前述のカーボンニュートラルも含め、技術力をベースに生き残る道を探る。

 例えば、JFEはインドの大手鉄鋼メーカーであるJSWスチールに15%出資をし、持分法適用会社にしている。さらに出資比率を高め、そこから得られる配当を増やすという方策を取ることも考えられるが、JFEは今、同社と合弁で、モーターなどに使用される高付加価値品・方向性電磁鋼板の製造販売会社を設立することを検討中。

「かつては海外で企業を買収した上で、その国の成長を取り込む戦略もあり得ると考えていたが、地政学リスクも含め、今はそういう状況にない」と柿木氏。今は技術を生かして、その国の成長を取り込む「ソリューション戦略」に転換した。

 JSWの他、台湾プラスチックがベトナムで稼働させた製鉄所を運営する合弁会社・フォルモサ・ハ・ティン・スチールに資本参加している。こうした提携先に対し、製鉄技術に加え、製鉄所の安定操業を支えるDX技術などを組み合わせたパッケージを提供して利益を得るビジネスモデルを模索中。

 また、中国最大手の宝武鋼鉄集団とは自動車用鋼板、特殊鋼棒鋼など、複数の高付加価値品で合弁事業を展開している。世界で戦うにあたっても、技術力がカギを握っている。

グループ総合力の発揮を


 グループの総合力の発揮も、さらに必要になる。傘下のJFEエンジニアリングは、前中計で鉄鋼事業が苦戦する中でも再生可能エネルギーなど環境・バイオマス関連事業で気を吐き、グループを支えた。今回の中計では「洋上風力発電」に注力する方針を示す。

 日本政府も今、洋上風力の拡大方針を打ち出しており、今後需要の拡大が見込まれるが、風車の足元を支える着床式の「モノパイル」と呼ばれる基礎構造物は、オランダ企業がドイツ製の素材でつくったものを輸入しているのが現状。ここにJFEスチールが生産した厚板を使って、JFEエンジが製造を担う形で参入を目指している。

 また、浮体式の洋上風力は将来技術だとされているが、これも35%を出資するグループの造船会社・ジャパン マリンユナイテッドが取り組んでいる。グループを挙げて、洋上風力の需要を取りに行く。

 冒頭の柿木氏の言葉にあるように今、日本の鉄鋼業は大きな転換点を迎えている。「日本の製造業が生き残る道は、やはり差別化された商品を技術力で製造すること。そして鉄鋼は地産地消が基本で、自国に技術の基盤がなければいけない」

 そしてJFEも、さらには現在の日本製鉄も再編で誕生した企業だが、再編への考え方も変化している。柿木氏は「今は再編に向かうメリットがない」とした上で、「かつては規模が大きくなれば選ばれるはずだと考えていたが、今はそうではない。例えばカーボンニュートラルの技術を確立した企業を中心に国内1社に絞られるといった技術を軸にした再編はあり得る」と話す。ここでも技術がカギを握る。

 コロナ禍で社会情勢が混沌とする中、JFEグループで働く社員、特に若手は将来に対して漠然とした不安を抱いている。そうした社員に対しては「『なくてはならない』会社でなければ生き残ってはいけないという健全な危機感を持って欲しい」と訴える。

 近代鉄鋼の成立から約200年。今は量で中国に左右されているが、今後カギを握るのが、やはりリサイクルを含めた技術。そこに日本の鉄鋼メーカーの生きる道がある。

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