2021-06-12

「菅おろし」がやんだ自民党 東京五輪を前に主導権争いの号砲

イラスト:山田紳


入管法改正を一転断念

 菅政権の求心力低下は国会対策にも表れた。外国人の在留管理を厳格化する入管法改正案の衆院審議が大詰めを迎えていた5月18日、政府・与党は突然、今国会での成立を断念した。継続審議扱いになる見通しだが、秋までに衆院が解散されるため、事実上の廃案にほかならない。

 改正案は、国外退去処分を受けた外国人が入管施設に長期収容されている問題を解消するのが目的だった。送還まで支援者や弁護士らの監理の下に施設外で生活できる「監理措置」を設けた半面、同じ内容の難民認定申請を3回以上した場合は申請手続き中でも送還できるようにした。入管行政に対する世論の批判に配慮し、硬軟両様の対策を盛り込んだのが特徴だ。

 しかし、政府が改正案を閣議決定した後、名古屋出入国在留管理局の施設に収容中のスリランカ人女性が3月に死亡。体調不良を訴えていたにもかかわらず、適切な治療が受けられなかった疑いがあるとして、野党は法務省に監視カメラの映像開示を要求した。

 今国会での成立を目指す与党は、開示の代わりに法案修正で立憲民主党など野党の軟化を促したが、5月14日夜、合意寸前で協議は決裂。森山ら自民党国対幹部からは「来日した遺族へのポーズに過ぎなかったのか」と野党への批判が噴出し、週明けに衆院法務委員会で採決する方針をいったんは固めた。

 それがあっさりひっくり返ったのは、報道各社の週末の世論調査で、政府の新型コロナ対策への不満から内閣支持率が軒並み低下したことが大きかった。

 先述したように改正案には非正規滞在の外国人の処遇改善につながる部分があり、実は野党も「局地戦には勝ったが、長期的な評価は難しい」(立憲民主党議員)と、与党に成立を断念させたことを手放しでは喜んでいなかった。裏を返せば、政権に勢いがあるときなら、与党には強気で採決に臨む選択肢もあっただろう。

 ただ、公明党は強行採決だけは回避したいのが本音だった。参院法務委員会の委員長は同党の山本香苗。万が一、採決時に荒れる場面がニュースで繰り返し報じられたら、東京都議選(6月25日告示、7月4日投開票)に悪影響が出ると懸念したからだ。

 それだけではない。新型コロナの収束に一丸となるべき場面なのに、政権には末期症状ともいえる緩みが目立ち始めた。

 副防衛相の中山泰秀は5月20日、参院外交防衛委員会に遅刻し、流会になった。その1週間前には副厚生労働相の三原じゅん子が参院厚労委に遅刻し、菅が19日の参院本会議で「今後このようなことが起こらないよう、政府全体で気を引き締めて国会対応に当たる」と陳謝したばかりだった。

 官房長官の加藤勝信は20日、副大臣と政務官を急遽、首相官邸に集め、「このような形で注意喚起するのは極めて異例のことだと強く認識していただきたい」と苦言を呈した。

【外務省】積極的な「ワクチン外交」で存在感発揮へ

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