2020-12-17

横浜銀行・大矢恭好頭取が語る「メガにも対抗できる地銀づくり」とは?

大矢恭好・コンコルディア・フィナンシャルグループ社長(横浜銀行頭取)

コロナ禍の中で「傘を差し出す」存在に


「コロナ禍では、お取引先の資金繰り支援に注力してきたが、足元で需要はピークアウトしてきたと思う」と話すのは、コンコルディア・フィナンシャルグループ社長で横浜銀行頭取の大矢恭好氏。

 企業の資金繰りが厳しくなる中、横浜銀行は3月、プロパー融資(信用保証協会を挟まない、銀行自身の融資)の特別枠を設け、支店長に専決(融資可否の権限を与える)を許可することでスピード感を持って顧客を支える体制を整えた。

 その後、信用保証協会のセーティネット保証、5月からは民間金融機関で実質無担保・無利息融資が実施できるようになった。「無担保・無利息が出たことで、お借り入れするのを躊躇していた企業、これまで借金をしたこともないという企業、お取引のなかった企業からのお申込みがあった」(大矢氏)

 5月から6月中旬頃をピークに、6月後半から7月にかけて、取引先企業の資金繰りは落ち着きを取り戻したという。ただ、コロナ終息が見えない中、宿泊施設や飲食店の中には顧客が戻っていないところもある。

「企業サイドも、どこまで調達すればいいのかを悩んでおられるし、我々もお客様のキャッシュフローの改善度合いを見ながら協力している」と大矢氏。

 近年、横浜銀行は融資だけではなく、取引先に何を価値として提供できるかを模索してきた。それが「ウィズコロナ」の中で、取引先に対して、例えばテレワークのやり方、難しいと言われた「雇用調整助成金」の申請方法を教える、企業と企業、大学と企業をマッチングさせるといった支援を実行。しかも、対面ではなくウェブセミナー、ウェブ商談会という「非対面」で実施。

 地銀は人口減少の中で融資が伸びず、企業も海外進出を進めて国内投資が減る状況で、成長性が疑問視されてきた。融資案件が減り、数少ない案件に多くの銀行が群がれば、当然利ざやも下がり、収益力は落ちるということの繰り返し。

 ただ、「雨の日に傘を取り上げる」と言われてきた銀行は、今回の危機で雨の日に傘を差し出す役割を果たした。「社会的インフラとしての金融機関をご評価いただけたのではないか」と大矢氏。

 しかし、大事なのはこれから。危機の中で出た融資も、当然ながら借金。借り手としては、どう返済していくかが問われる。そこに銀行として、経営改善に向けてどう支援できるか。

 借り手はキャッシュフローの健全化に向け、リストラや業態変更を含めた事業計画を策定する必要がある。先行きが見えたり、事業意欲の旺盛な企業に対しては資本性のある「劣後ーン」を提供したり、ファンドによる優先株の引き受けといった段で資本が傷むのを防ぐ。

「お客様の取引先がクレジットを見て、支払いのサイトを短くしたり、発注や納入をしてくれなくなるといったことのないよう信用力を維持することも、メインバンクとしての重要な役割。伴走しながら経営改善のお手伝いをする」(大矢氏)

 特に今は事業承継、それに関連するM&A(企業の合併・買収)の需要が強い。大矢氏は「これまでも提案してきたが、以前は『まだいいよ』という反応だったのが、今は待ったなしの雰囲気」という。後継者を探して紹介したり、スポンサー企業探しや売却の支援もしている。これも融資とは別の、銀行の仕事を増やす機会となる。


銀行業務のデジタル化は待ったなしの状況

 だが業界では、コロナ禍で築いた信頼を傷つけるような事態も起きた。NTTドコモのキャッシュレス決済サービス「ドコモ口座」を不正に使って、他人の口座から預金を引き出すという事件が発生。被害は全国11の銀行で確認されている。

 この中に横浜銀行、同グループの東日本銀行は含まれていなかったが、大矢氏は全国地方銀行協会の会長を務める。

「便利であることは大事だが、前提に安全・安心がないといけない。ただ、不正を働く人とセキュリティはいたちごっこ。その意味で何かがあった時でも、利用者をきちんと保護し、補償する体制が大事」(大矢氏)

 横浜銀行では過去の様々な経験を踏まえ、決済事業者のセキュリティ体制をきちんと審査した上で提携している。

 認証を2回に分けることでセキュリティを強化する「二要素認証」や、本人確認(KYC=Know Your Customer)の徹底など、セキュリティと利便性をいかに両立するかが問われる。

 一方、コロナ禍を受けて、社会のデジタル化は加速している。銀行のサービス、そして業務のデジタル化は待ったなしの状況。

 銀行店舗は緊急事態宣言下でも必要な業務ということで開け続けたが、事務手続きのデジタル化が必要。「お客様に店舗にご来店いただく事務手続きをゼロにしたい。すぐにシステム化できないものでも、電話で対応することから始めるなど、どういうプロセスでできるかについてトライしている」(大矢氏)

 例えば「住所変更」など届け出事項の変更は、以前は店舗でなければできなかったが、昨年始めにウェブで変更できるようにしたところ、今は月間約1000件の届け出があるという。

 書類のデジタル化によるペーパレスも進める。データ化で保管や検索が容易になる。こうなれば在宅勤務での照会も可能で、生産性向上につながる。

 また、銀行業界全体の課題として「税・公金収納・支払」の問題がある。自治体ごとに用紙、書式が違い、その処理は、ほぼ全て人手で行われているのが現状。

 横浜銀行でも年間約1200万件の税・公金を処理しているが、電子納税などの活用割合は十数%というのが実情。全国銀行協会では3月から、スマートフォンを使った「QRコード決済」を全国の地方自治体での納税に対応させる検討を開始。

「デジタル庁」創設を目指す菅義偉政権にとっても、こうした社会的コストが発生している業務の効率化は重要になる。


何のための再編か?

「地方銀行の数が多すぎる」、「再編も選択肢」─。菅首相は就任早々、地銀再編という個別の課題に切り込んできた。前述のように地銀を巡る環境は厳しく、金融庁も再編を含む持続的なビジネスモデル構築を強く促してきた経緯があるが、首相が直接言及するのは異例。

 融資と、国債を中心とする運用を収益源としてきた地銀にとって人口減、長期化する低金利は打撃。資金余剰で企業側の調達ニーズもない。「融資に関してはオーバーバンキングと言っていい状況。その意味だけからすれば統合は一つの選択肢だが、地銀はそれだけで食べているわけではない」と大矢氏。

 他にない強みを持ち、それを過当競争に陥っている領域以外で発揮できれば、規模の大小を問わず生きていくことができるし、強みを持ち寄った前向きな統合を選ぶこともできる。逆に、それがなければリストラなどコスト削減、生き残りに向けた統合を選ぶしかなくなる。

 重要なのは統合でシナジーを描けること。「統合に目的がなければ、単なる数合わせになってしまう」(大矢氏)

 横浜銀行と東日本銀行の統合でコンコルディアFGが発足したのは16年のこと。神奈川を地盤としながら東京にも拠点を持つ横浜銀行だが、成長する東京マーケットでさらなる発展を目指そうという戦略を描き、東京を地盤とする第2地銀・東日本銀行との統合を選んだ。

 目的は明確だったが、シナジーの発揮には「苦労している」。東日本銀行では18年、営業成績を上げることを目的とした不適切融資が発覚し、金融庁から業務改善命令を受けた。

 この立て直しに向けて、横浜銀行でも活躍が期待されるような人材を東日本銀行に送り込んでいる。「山を越えれば、東京における中小企業金融の〝核〟となる可能性を秘めている」(大矢氏)。目的を持った統合でも、実行には苦労が伴うという一つの事例だと言える。

 横浜銀行は「提携」にも活路を見出している。それが19年7月に締結した千葉銀行(佐久間英利頭取)との提携である。1年が経つが、法人向け融資から始まり、今や個人向けの投資信託の相互販売にまで拡大、初年度の提携効果額は計画の2・4倍になるなど成果が出ている。

「同じ首都圏を拠点にし、似たような規模、商品構成を持ちながら、強みと弱みが違う。1行ではできないことができるし、この2行でしかできないことができる。メガバンクとも戦える」と手応えを感じている。

 企業に対して融資する際、1行だと与信上、融資できないケースでも2行なら可能になることがある。また、運用商品のバーゲニングパワーが上がるなど、ビジネスチャンスが広がる。

 提携でわかったことは「お互いに同じような実績が上がる」こと。今後は個人向け運用商品の深掘りや、デジタル活用、まだお互いが手掛けていないビジネスに取り組むことなどで提携を深化できないかを検討中。

 提携には歴史的経緯もある。1980年代、横浜銀行、千葉銀行に埼玉銀行(現・埼玉りそな銀行)を加えた3行による「首都圏連合構想」が浮上、お互いの地域に支店を出さない暗黙のルールがあった。それが現在の営業エリアの重複などがない提携関係につながっている。

 さらに、注目されるのが「第4のメガバンク構想」を掲げるSBIホールディングスが設立した「地方創生パートナーズ」に、コンコルディアFGとして5%出資したこと。

 横浜銀行は15年にSBIの子会社が運営するフィンテックファンドに20億円を出資した他、投資先を紹介してもらったり、行員を派遣して投資を学ぶという関係にある。

「SBIさんの持つ知見、付加価値に期待してお付き合いをしていた。最後にSBIさんに熱心にお誘いいただいたことが決め手となった」と大矢氏。

 この枠組みの今後は未知数だが横浜銀行という中核地銀が加わったことで、何らかの動きにつながる可能性が出てきた。


公的資金注入、リストラを経験して…

 20年12月、横浜銀行は100周年を迎える。リアルの記念イベントは中止したが、約5000人が参加するオンラインイベントを開催する。当初、事務局は「中止します」と報告したが、大矢氏は「オンラインでできないのか? 」と逆提案。「ご家族やOBも参加できるし、1万人でも参加できる」と前向き。

 時代が変わっても、地域を支え、共に生きる地銀の役割は変わらない。今、横浜銀行はコロナで傷んだ地域経済を支えるため、「地域通貨」の実証実験を進めている。「夏に間に合うよう開発を急いだ」(大矢氏)。横浜銀行の行員がスマホのアプリに地域通貨をチャージし、代金を決済すると最短2営業日で加盟店の口座に入金される仕組み。

 実験結果も踏まえて、地方自治体との連携も進める。「デジタルの力も使って、地域の持続的発展にお役に立てるかを考えていく」と強調。

 大矢氏は1962年4月神奈川県生まれ。85年一橋大学商学部卒業後、横浜銀行入行。「ゼミで銀行論を専攻していたことと、様々な業種をつぶさに見ることができて面白いのではないかと感じた」と志望。

 過去の厳しかった経験として、90年代終わりの公的資金注入前後のリストラを挙げる。大矢氏は当時、経営企画部で公的資金申請書類の作成や、金融監督庁(現・金融庁)とのやり取りを進めていた。同庁への報告は深夜3時に及ぶこともあった。

「金融機関が追い詰められて、政治リスクを取って公的資金を注入するというタイミングを目の当たりにした。株価も下がり、『次に潰れるのは横浜銀行ではないか? 』と噂され、行員も浮足立った」と振り返る。

 当時、約7000人いた行員は最終的に約3300人と半分以下に減らした。経費も1200億円以上あったものを900億円台まで削減。「生き残りが最優先で、新しい提案が来ても承認できないのが辛かった」

 ただ、厳しい経験の中でコストコントロール力、「慌てても仕方がない」という精神力、そして実績を上げることの重要性を学ぶことができたという。

 地域ごとに事情が違うだけに、コンコルディアFGの取り組みを全ての地銀が真似できるものではないが、地銀としての一つの生き方を示しているといえる。

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