2020-12-09

「牛角」創業者・西山知義が今度はハンバーガーで勝負!

「牛角」創業者の西山知義氏(右)とブルースターバーガー・ジャパン代表の西山泰生氏

フードテックは外食業界の救世主

「ハンバーガー 170円」─。東京・中目黒駅のほど近く、青色をベースとしたカラーリングとDIY感のある店舗には、ハンバーガーの写真と共に、こんな売り文句が記載された看板が立てかけられている。ハンバーガー店には珍しく、オープンキッチンが設けられており、調理風景を覗くことができる。

 看板の宣言通り、低価格がウリであるため、行列ができていると思いきや、入店待ちの客は1人もいない。一方で、入れ替わり客が入店し、紙袋を持って店を出て行く。店内ではハンバーガー店でよく見る店員に注文したり、会計する光景はない。

 同店は「ブルースターバーガー」。グルメバーガーと呼ばれる材料や製法にこだわって手作りしたハンバーガーのことだ。外資系の「シェイク シャック」などが有名だが、価格帯は1000円を超える。ただ、ブルースターバーガーが他の店と違うのは、完全非接触のテイクアウト専門店であるという点だ。店内に飲食スペースはない。

「(外食とデジタルを融合する)フードテックは外食業界にとっての救世主。単なる人手不足の解消ではなく、安くて美味しい商品を提供するための武器になるからだ」─。こう意気込むのは運営会社のブルースターバーガー・ジャパンを設立したダイニングイノベーショングループ創業者の西山知義氏だ。

 西山氏と言えば、炭火焼肉チェーン「牛角」を創業から7年で1000店舗まで広げ、しゃぶしゃぶ店「しゃぶしゃぶ温野菜」などを全国で展開したレインズインターナショナルの創業者でもある。ただ、急激な店舗拡大に加え、コンビニの「エーエム・ピーエム・ ジャパン」や高級食品スーパーの「成城石井」などを買収して多角化を図ったが、うまくいかなかった。

 一度は表舞台から姿を消した西山氏だったが、2012年にダイニングイノベーションを設立し、しゃぶしゃぶ事業「しゃぶしゃぶれたす」や蕎麦事業「じねんじょ庵」を展開。18年には1人1台の無煙ロースターを使った新しい焼肉店「焼肉ライク」を出店してヒットした。

 焼肉ライクは「焼肉のファストフード」(同氏)をコンセプトにしている。通常、焼肉の客単価は3000円前後。回転寿司が2000円程度のため、1000円高い。だが、「焼き肉も回転率を上げれば多くの客に対応できるので、もっと低価格にできる」(同)。結果として低単価で高回転の焼肉業態を開発したことで、ランチ時間などには行列ができる店になった。

ブルースターバーガー
ブルースターバーガーのセットメニュー


中国のコーヒーチェーンが業態開発のヒントに

 そんな西山氏が次に照準を合わせたのがハンバーガー。西山氏によると、世界のハンバーガー市場は約69兆円。外食市場でも最大だ。ただ、多くの業態が「低価格×低品質」、または「高価格×高品質」に分類される。そこで西山氏はITを活用して無駄とコストを省き、浮いた原価を商品に投入することで「低価格×高品質」という空白のマーケットを狙えると考えだ。

 一般的な飲食店のコスト構造は、原材料費(原価率)が平均30%前後、人件費で3割、家賃で1割を占める。この構造を「ITを活用したフードテックで壊せる」と西山氏は考えた。

 店内の客席をなくし、テイクアウト専門にすることで、10坪の敷地さえあれば開業できるため、賃料も安く済む。また、独自のモバイルオーダーシステムとキャッシュレスシステムを導入することで、注文・決済・受け取りの全ては非接触。商品は客が来店して指定された番号の棚から商品を持っていくだけ。店舗従業員はレジ業務や清掃業務から解放され、「調理だけに集中することができる」(同)。

 浮いた原資は商品の原材料に充てる。ブルースターバーガーの最安バーガーは170円。だが、その原価率は69%だ。ビーフ100%のパティは冷凍せず、注文を受けてから店舗で焼き上げる。フライドポテトも北海道のジャガイモを直送し、店舗で裁断してから揚げている。

 業態開発のヒントになったのは19年11 月に業態視察で訪れた中国・深圳の「ラッキンコーヒー」。18年1月に1号店を出店した後、わずか1年で中国22都市に2000店舗以上を展開した「スタバ・キラー」と呼ばれるコーヒーチェーンだ。

「アプリで注文・決済した商品を店舗でピックアップする様子を見て、この形態はファストフード業界で主流となり、日本でも5年から10年で、この形になっていくと確信した」

 すかいらーくホールディングス(HD)やロイヤルHDなど大手外食企業が2桁規模の店舗閉鎖を余儀なくされる中、西山氏はブルースターバーガーの店舗数を「国内では2000店舗の展開を目指す」と意気込む。主にフランチャイズ展開で初期投資を低く抑えたこの業態の強みを生かしていく考えだ。

 ただ、日本のハンバーガー市場(約7300億円)の大半は「マクドナルト」と「モスバーガー」が占める。マクドナルドはコロナ禍を受けてテイクアウトの充実も図っているところだし、モスも手作り感を前面に出した商品開発は得意な領域だ。

 では、後発組の強さとは何か。大手チェーンがひしめくハンバーガー業界にあって、西山氏は「冷凍品を使わなかったり、レジを不要にしたり、同じことを大手チェーンがやろうとしても、簡単にはできない」と話す。

 外食はデジタル化が遅れている業界と言われて久しい。「今までにないものを創り出す」ことが自らの外食経営の本質と語る西山氏。コロナ禍で厳しい業種の代表格となっている外食業界で存在感を放つことができるか。ハンバーガーの味次第だ。

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