2021-06-08

【一時、時価総額で花王超え】資生堂・魚谷雅彦社長が進める「高付加価値化粧品」戦略

魚谷 雅彦・資生堂社長兼CEO


パーソナルケア事業の
事業譲渡を決断した背景

 ── 事業構造改革では日用品事業の売却も進めてきました。

 魚谷 この件については2つの側面を、ぜひご理解賜わりたいと思っています。

 1つは、単なる事業売却ではない、ということです。今回の本当の目的はこの事業に携わる社員に夢を持たせたいということなのです。これは、わたしがずっと言い続けてきたことです。

 パーソナルケア事業は全体の売上の中の約10%、日本国内で売上高約500億円の事業ですが歴史が長く、1959年に事業が始まって93年には売上高1000億円を超える事業になりました。当時はお中元需要も強く、資生堂の石鹸『サボンドール』はわたしもよくいただきましたし、『スーパーマイルドシャンプー』、『TSUBAKI』のヒットもありました。

 一方、この事業は広告宣伝費をすごくかけるので一見、目立つ事業ですが、残念ながら、近年、全体の中では売上がずっと伸び悩んでいました。

 事業の再成長のために、さまざまな取り組みを行ってきましたが、一定の成果はあげたものの、グローバル企業との競争は一層厳しいものになりました。

 それでも、わたしが最初に入社したのがライオン社なので、トイレタリー事業にはそれなりの知識と思い入れがあったので、専門部署として事業本部を作りました。パーソナルケア事業本部という事業部で、日本でも約200人の社員を配置しました。

 トイレタリー事業は化粧品事業と違って卸店を通じた流通形態なので、主力の『TSUBAKI』をリニューアルして積極的に広告宣伝を展開したり、もう一度基盤づくりをしました。

 そのうち中国向けのパーソナルケア事業が伸びて、全体ではまた1000億円規模の事業になっていますが、事業の将来を見据えたとき、ビジネス全体を俯瞰するとどうしても優先順位が低くなってしまう。

 研究開発でも化粧品関連の肌研究はものすごくやっていますが、トイレタリー系の研究は二の次になってしまうことがある。

 厳しい競争環境のなか、開発だけでなく、広告宣伝費もやはり化粧品が優先になる。

 そうなると、ここにいる社員は、どうやって夢を持つのかと。資生堂の社員という所属意識だけでなく、モチベーション高く、自分たちの事業に誇りを持てるか。自分のキャリアアップができるか。この課題を何とかしたいとずっと考えていました。

 ── 資生堂の中にいる意味を社員の立場になって考えたと。

 魚谷 そうです。それから、2つめの側面は創業の原点です。特に化粧品事業を本格的に始めた初代社長の福原信三さんは芸術家を志した人で、化粧品は女性に夢を提供するビジネスなので品質はもちろん、パッケージや広告も〝憧れ感〟を持てる商品にしようと芸術大学の人にデザインをお願いするなど、すべてにこだわってモノづくりをしてきました。こうして化粧品の持つ価値を創出したことが資生堂の発展の基盤になっています。

 その後、現在の「ビューティーコンサルタント(BC)」の前身となる「ミスシセイドウ」を育成してお客様の肌の状況を見て化粧品の使い方をお伝えする付加価値の高いビジネスモデルを構築しました。

 それから90年近く経ったいま、国内に9000人、全世界に2万人のBCがいるので、その分、固定費の人件費が非常に大きくなりますが、この人たちが実は化粧品事業の根幹を支える付加価値なんです。

 ですから、そういうことが資生堂の原点としてあるとしたらパーソナルケア事業は日本の高度成長期にかなりの発展をしたけれど、これから先を考えると、やはり高い付加価値の美を追求する会社ということになります。

 進化が著しいデジタル技術を活用しつつ、BCを中心とするカウンセリング主体の事業モデルを、日本だけでなく、世界で展開していくべきであろうと。

 トイレタリーというのは大量生産型で、価格帯も事業モデルも化粧品とは全く違うので、資生堂は創業の原点のところに集中することにして、トイレタリーはその事業に集中して取り組める環境を作るべきだと決断をしました。

 ただし、わたしは事業売却という言葉には若干違和感を持っています。確かにパーソナルケア事業を1600億円で譲渡するわけですが、わたしたちも新会社に対して間接的に35%を出資します。これは最初から考えていたことです。

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 ── 35%の意味は?

 魚谷 35 %というのは、非常に重要な意思決定に関わる立場です。当社にとっても大きな出資になりますから運命共同体であると。

 ですから、この会社が、トイレタリー専業の会社として、R&Dもマーケティングも自分たちで運営し、資生堂に依存するのではなく、自立して、夢を持てる会社になるまでサポートしていきます。資生堂の中では優先順位が低くても、この会社では積極的に投資をすると。

 それからCVC社は海外の実績を見ても、長期的な視点で投資し、いい会社に育て、できれば上場を実現したいという会社です。よくいわれる短期的なファンドとは中身が違うことも確認していますし、社員の雇用や報酬条件もすべてそのまま移管することも保障しています。

 単なる売却ではない、新しいビジネススキームであることをご理解いただきたいのです。

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