2021-06-02

【倉本聰:富良野風話】怒怒怒!

世の中、昔から色んな差別がある。

 男と女。肌の色のちがい。年寄りと若者。金持ちと貧乏人。人道主義者がいかんと怒っても識者・マスコミが止めようと叫んでも、差別というものは自然と生まれてくる。というより、みんなが無意識に生んでいる。

 早い話がIT弱者。

 ワクチン接種を国が命令して、パソコンを使って申し込めと言われても、やれログインだの、インストールだの、何の話だがさっぱり判らない。大体やつがれはパソコンが使えない。スマホだって最近買わされてしまったが、10分の1も使用法が判らない。なのに国家は国民全員がパソコンを使えるものだと勝手に決めつけて国家的命令をIT基準で発令する。これ、歴然たる差別である。

 ならば今、世の中にやつがれという言葉を理解するものがどれ程いるのか。やつがれはもう古いと決めつけるなら、古いのが何故悪い、それは差別だろうと我々年配者は怒鳴りたくなる。大体パワハラだのセクハラだのナンタラハラだのコンタラハラだの、昨日まで当たり前にやっていた行為が何の公示もなく罪になるのも、判りはするものの釈然としない。

 インストールって何ですか?と老妻にきかれて、誰に向かって物を聞いてるんだ! そんなこと俺に聞いたって知ってるわけがないだろうが!と家庭内不和の種をあちこちにばらまいて、世の中進んだと疑問にも感じない。国家そのものを疑いたくなる。

 スマホ用語では“笑笑笑”というのが流行りだそうだが、僕が用いるなら“怒怒怒怒怒! ”でいっぱいになるだろう。

 先達、コロナで御苦労なさっている医療従事者を支援するための募金活動を立ち上げて、8500万円程の金を御寄付いただくことに成功したが、周囲の若者、主催してくれた新聞社はクラウドファンディングでやりましょうと最初言い、いざ幕を開けたら、銀行振込みじゃいけないのかという苦情が殺到。急遽、それもあり、と方針変更したら、銀行振込みによる募金の方が3分の2を越える多さだった。

 日本は今や高齢者社会。高齢者の多くは、かつての日本の美徳であった“つつましさ”“奥ゆかしさ”というものをまだ厳然と持っているから、若い者のやることに声荒立てて怒ることをしないが、内心呆けかけた頭の片隅で、どうもおかしい、という耐えがたき“怒怒怒”を煮えたぎらせているにちがいないのだ。

 ワクチン接種の申込み方法で、全国一斉に招いている混乱。あれまさに社会の実態というものを施政者の側が判っていない一つの顕著な現れである。世の中、IT社会になったといい、政府も役人も報道キャスターやコメンテーターまで難しい単語を濫発してくれるが、IT弱者たる我々後期高齢者にはあれらの言葉がかなりの比率で判っていない。苦労してあいつらをヨチヨチと育て上げ最高学府まで出してやったのに怒怒怒!

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