2021-06-02

【私の雑記帳】『財界』主幹・村田博文

経団連の会長交代


 経団連の使命は何か──。

 2018年5月から経団連会長の任にあった中西宏明さんが病のため、任期途中で辞任、その後任に住友化学会長の十倉雅和さんが内定した。正式には6月1日の定時総会に合わせての交代となる。

 デジタル革命、環境問題という時代の変革期にあって、中西さんは第14代の経団連会長に就任。

 日本のモノづくりを代表する日立製作所の構造改革を推進した実績と人柄が買われての起用だった。

 日本経済団体連合会──。とかく、旧来型の産業の集まりと言われた経団連。IT(情報技術)やAI(人工知能)などの若い産業が台頭し、それらIT関連企業をいかに取り込むかも会長の重要な仕事の1つである。

 楽天グループの総帥、三木谷浩史氏のように、自分たちで経済団体をつくろうと『新経連』を立ち上げる若き経済人も登場。

 こういう中で、中西さんはアントレプレナー(企業家)たちとも親交があり、新興企業との対話も推進。DeNAの南場智子さんを副会長に選任。中西さんは包容力のある経済リーダーである。

『不確実性の時代』の成長


『。新成長戦略』──。中西経団連が打ち出した日本の成長戦略のタイトルである。

 最初に、『。』と終止符が打たれているのも、新機軸を打ち出すぞという意気込み。

 なぜ、こういう新奇なタイトルにしたのか?  という本誌の問いに、中西さんは、「コロナ禍を機に、資本主義のサステナビリティが真剣に問われていることを踏まえ、企業がそこにいかに貢献するかを議論の出発点としました」と切り出し、次のように続けた。

「このような事態を、1年前には誰も予測できなかったと思います。まさに不確実性の時代と言えます。他方、コロナ禍でDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れなど課題が浮き彫りになり、一気に加速させるチャンスでもあります。危機の最中から、ニューノーマル、そしてその先のアフターコロナの経済社会の在り方を見据えて、いち早く新しいビジネスモデルを打ち出した者が次の時代を制することができます」

未来を自ら創り出す


 日立製作所はリーマン・ショック後に製造業としては当時最大の赤字(7873億円余)を出し、子会社を含めて厳しい構造改革に迫られた。その時に白羽の矢が立てられたのが川村隆さんと中西さんで、お二人は改革を断行。

 その構造改革は現在の同社CEO・東原敏昭さんに引き継がれている。改革に終わりはない。今後も中西氏の改革魂は新しい経営陣にも受け継がれていくであろう。

 中西さんは経営トップに望まれるものとして次のように述べた。

「経営トップには、変化にひるまず、変化を恐れず、むしろ変化をチャンスと捉えて、不確実な未来を予測しようとするのではなく、未来を創り出していく気概が求められるのではないでしょうか」

 コロナ危機の今、経営トップに求められる資質がこの言葉に込められていると思う。

十倉新会長への期待


 経団連新会長の十倉雅和さんは1950年7月10日生まれの70歳。74年(昭和49年)に東京大学経済学部を卒業して住友化学工業に入社。住友化学としては、米倉弘昌さん(故人)に続いて2人目の経団連会長となる。

 経営企画畑や半導体材料関係にもたずさわり、韓国・サムスン電子の実力者・李健煕氏(前会長)にも信頼されたという。

 課題解決型の経済リーダーという評価。温厚な人柄で、「人の意見をよく聞く人」、「笑いの絶えない人」という評価がどんな人からも出てくる。

 事業再編で、住友化学はかつて、三井化学との統合を模索したことがあった。あと一歩という所まで、統合交渉はいったのだが、結局破談となった。

 住化の某首脳が「上から目線でモノを言ってくるので……」と関係者からは、破談理由について、こんな声も聞かれた。

 共に、旧財閥系の代表企業であり、歴史と伝統を持つ両社。統合したほうが成長できると合理的判断を下したはずなのに、いざ統合作業を進めると、“人間的感情”のもつれで破談となってしまった。

 この時の十倉さんの立ち居振る舞いについて、「十倉さんは終始、紳士的に話ができた人。じっくりこちらの話にも耳を傾けてもらったし、対話はすすみましたよ」と三井化学某首脳は語る。

 こうした人と人のつながりが、新しいステージでどう生かされるか。DXの時代であっても、その基礎を担うのは「人」。人の力をどうまとめ、グローバル世界に情報発信していくか、十倉さんの人間力と情報発信力に期待がかかる。

求められる『覚悟』


 確かに時代は大きく、激しく変革している。ソフトバンクグループが純利益で約4・9兆円もたたき出して国内最高益を記録。コロナ危機下でIT、デジタル関連業種の好調が目立つ半面、航空、観光・宿泊の不振と明暗が分かれる。K字回復といわれるユエンである。

 また、米中対立で『経済安全保障』がいわれ、経済と政治が絡む時代でもある。価値観の対立の時代でもある。

 そして、気候変動・環境問題や人権問題というグローバルな共通の課題にどう取り組んでいくか。こうしたマクロ問題に企業も取り組まないと生き残れなくなった。

「脱炭素にしても、2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標を日本は掲げましたが、そう簡単なことではない。業種によって、その深刻度も違いますからね」と某経済人は語り、次のように続ける。

「新しい目標を実現しようとすると、経済の縮小均衡も覚悟しないといけない。われわれは、これまで拡大均衡で成長を追ってきたわけですからね。それを構造改革していくとなると、縮小均衡も避けられません。本当に知恵の出しどころです。やり遂げねばならない」

 経済リーダーに覚悟が求められる時代と言っていい。

倉本聰さんの訴えに……


 危機の中をどう生きるか──。

もっと言えば、みんながコロナ禍の中で死と直面している。

 生老病死。昔から、生と死は一体で考えられてきた命題。いかに生きるかは、いかに死ぬかに通ずる。

 この根源的なテーマについて、本号では倉本聰さんに執筆していただいた。題は、『そしてコージは死んだ』。長い間、苦楽を共にしてきた仲間の死についての考察。

「この歳になって、死ぬことに対してはもうあまり恐怖はないんです。ただ、死ぬ時の苦しみというのが一番恐怖としてあるんです」

 尊厳死という言葉はあるが、内科医と外科医で解釈が違うという現実。昔は、死を家族が看取ったが、今は病院になった。人の生き方と尊厳死を真剣に考え直す時だ。倉本さんの訴えは実に重く響く。

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