それだけに、菅政権は総力戦でワクチン接種の加速に取り組むが、ワクチンを巡る少しの誤差は、東京五輪の開催の可否にも直結しかねない。
既に五輪開催に懐疑的な声が渦巻いている。報道各社の世論調査では、緊急事態宣言の延長もあり、五輪開催を支持する声は多数になっていない。
日本共産党委員長の志位和夫は5月6日の記者会見で、五輪・パラリンピックについて「今のコロナ感染状況はご承知の通りで、緊急事態宣言を延長せざるを得ない深刻な事態が続いている」と指摘し、「そうした状況を踏まえ、直ちに中止を決断し、関係諸方面と調整すべきだと強く求めたい」と強調した。
そして、五輪中止を求める理由について(1)ワクチン接種が間に合わない(2)国によって感染状況が異なる中でフェアな五輪にならない(3)医療従事者を五輪のために集めることは現実的でない──ことなどを挙げた。
呼応するかのように、立憲民主党政調会長の泉健太は翌7日の衆院議院運営委員会で「大変残念だが、夏の五輪は延期か中止にして、ワクチン接種と治療、国民の命と健康を優先させるように提案する」と訴えた。
あくまで五輪開催を目指す政府・与党との対立軸を明確にさせると共に、6月16日に会期末を迎える通常国会の終盤戦をにらんで「野党共闘」を演出する狙いがあるようだ。
だが、与党は警戒しつつも、「共産党と主張が全く同じでいいのか。五輪が実現したら恥をかくのに」(閣僚経験者)など、日本共産党と足並みを揃える立憲民主党をけん制する。
菅は5月7日の記者会見で、五輪・パラリンピックについて「国民の命と健康を守り、安心、安全の大会を実現することは可能だ」と強調した。
五輪開催に漕ぎ着けることができれば、野党の批判をかわせるだけでなく、逆風を追い風に変えることもできる。その重要な判断は、無観客を含む観客数の上限を決める6月に行う。やはり5月31日まで延長した緊急事態宣言で、首都圏のコロナ感染を抑え込めるかがカギを握る。