2021-05-25

20代でも管理職に昇格 なぜ住友商事は大胆な人事制度を打ち出したのか?

写真は入社式

個が強くならないと組織が強くならない



「会社戦略をベースにして、個人が世界で通用する力、特にプロフェッショナルと言われる専門性を一人ひとりが高めていく。まずは個から。個が強くならないと組織が強くならない。真のプロフェッショナルを育成・輩出していくことで強い組織をつくっていきたい」

 こう語るのは、住友商事グローバル人材マネジメント部企画チーム長の井上尚幸氏。

 住友商事が4月から新たな人事制度を導入した。新制度のコンセプトは『Pay for Job, Pay for Performance』。年次管理を撤廃し、職務や成果を従来以上に報酬と連動させる制度で、5年ぶりの制度改定となる。

 中でも目を引くのは管理職への早期登用。大卒入社の社員であれば、これまで最短でも8年かかっていた管理職への登用が、実力次第だが最短5年での昇格が可能になる。理論的には20代の管理職に30代、40代の部下がつくこともあり得るということで、狙いは“年功序列意識”からの脱却だ。

「今回の改定は若手だけにクローズアップしたものではなく、シニアにも刺激を受けてもらう。要は、年次管理はもうしないということ。人それぞれ成長の早さが違うし、一概に若くして昇進すればいいというものでもない。個々人の成長ステージにあった舞台をちゃんと用意するということが狙い」(井上氏)

 同社がこうした人事制度改革に乗り出したのは、近年、時代の流れと共に商社の役割が変わってきたことも大きい。

 かつてのトレーディングをメインとした時代から、投資して利益を得る “事業投資”、更に人材を送り込むことで主体的に経営をリードする“事業経営”へとビジネスモデルが変化。その意味で、経営人材の育成は同社にとって大きな課題である。

「商社は世界で多岐に渡る仕事があるので、会社としても、社員が活躍できる場をきちんと整えていく必要がある。制度をつくるだけでなくスピード感をもって具現化していかないと、これだけ経営環境が変わっていく中で、われわれが生き残っていくことはできない。きれいごとに聞こえるかもしれないが本気で考えている」(井上氏)

 同社は2021年3月期に過去最大となる1530億円の最終赤字を計上。マダガスカルのニッケル事業やインフラ事業の工事遅延に伴うコスト増など、減損を含む約3510億円の一過性損失が発生した。

 長く資源偏重できた同社だが、コロナ前の20年3月期の連結純利益に占める資源事業と非資源事業の割合は13対87。事業ポートフォリオ改革は進んでいるが、それでも市況下落に伴う損失は発生するし、赤字にもなり得る。その意味で、同社の事業構造改革はこれからも続くだろうし、赤字に陥った今だからこそ、人事制度改革を含めて、様々な改革を断行しやすい面もあるのではないか。

 言うまでもなく、商社の経営資源は“人”。人の能力を掘り起こすことで、新たな時代を切り拓こうとする同社である。

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