2021-05-24

【34期連続の増収増益・ニトリHD】似鳥昭雄の「何事も先制主義。やると決めたら、そこに力とお金を!」

似鳥昭雄・ニトリホールディングス会長



よそより強いものが最低でも1つなければ

「コロナ危機下では、全産業において強弱がはっきりする。コロナが明けると、一段と差がついてくる。だから、このコロナ時代をいかに生き残って、伸びるかという方法を考えなければいけないということですね」

 大事なのは、このコロナ危機いかに生き抜くかということ。それも、コロナ後を見通して、考え抜かなければいけない。

 そして、生き抜くには、「よそより強いものが必ず1つなければ駄目。1つだけでも生き抜けるけど、もっと進むなら2つあればいい」という氏の事業観。

 ニトリホールディングス自体は34期連続の増収増益だが、市場全体の伸びは停滞。家具やインテリア類を扱う企業は、日本DIY・ホームセンター協会を設立しているが、全体の売上はこの10数年間、約5兆円で停滞。

 従って、各企業間の販売競争は激化、限られた市場の取り合いとなり、せめぎ合いが続く。
 ニトリホールディングスが島忠をM&Aした背景に、市場が停滞しているということもある。

34期連続の増収増益で、今期も35期連続を狙うと言っても、そうした厳しい経営環境をしっかりと見据えた上での似鳥氏の戦略である。

「いまコロナ危機で、在宅勤務やリモートワークで住関係の販売とか、うちが一時よくなったといっても、今年(2021年)は元へ戻る。もう皆さん買う物を買いましたからね。昨年は住関連はよかったけど、今年からはそうはいかない。マイナスをどれだけ我慢するかという局面ですね」

34期連続の増収増益を達成したといっても、気を抜かずに経営の任に当たり、35期連続を成就するという氏の気迫であり挑戦者魂である。

 ニトリは今期、内外で計110店の出店を計画している(国内出店は86店)。

 国内店舗は島忠の店舗を入れて722店。これに今期110店が加わるから、832店に増える。

 前期の出店数は約50店だったから、今期はその2倍以上になる。この〝強気の投資〟はどこから出てくるのか?

「既存店の売上高は通期見通しで97・2%です。だから今期は2・8%のマイナスになる。どこの業界も大体、4、5%のマイナスになっている。うちはそれでも少ないほうです」

 そうした現実のデータを直視しながら、手を打っていくということだ。

『衣・食・住』で新事業開拓アパレルの『N+』も開店

 今後の成長を図っていく上で、『衣・食・住』を手がけるというのが似鳥氏の考え。
 ニトリは家具販売というイメージを持たれがちだが、家具類の売上は全体の37%。残りの63%はホームファッション、いわゆる室内装飾品である。最近は家電製品も扱う。

「家の中をコーディネートするのは楽しいですよ」と似鳥氏は消費者に提案してきた。
 家具店から出発し、ホームファッションを拡充し、成長してこられたのも、「1に値段の安さ、2に品質の良さ、3にコーディネート力」という似鳥氏の戦略が功を奏したからだと言える。

 そして、これからの成長を図り、当面の目標、2023年2月期に売上高1兆円達成を実現するための有効な手として、今回の島忠の買収があった。

 島忠を取り込み、その成果はどうやって上げていくのか?

「家具やソファー、ダイニング(調理設備)とかベッド類は10万円から20万円ぐらいの価格帯を置いている。具体的に、家具ではこれが一番売れます。島忠では20万円から40万円クラスをやっており、中には60万円とか70万円とかあるけど、倍の40万円ぐらいがメドかなと思います。とにかく、今までのうちの倍ぐらいまで価格帯を伸ばしていく」

 似鳥氏はこう語りながら、次のように続ける。
「うちの価格帯は大衆価格だから、日本国民の80%を相手にさせてもらっています。あと2割の層の商品が島忠にあるということですからね」

 商品の品揃えの幅が広くなる。
「ええ、今まで年収800万円か900万円の人たちから、これからは年収1500万円とか2000万円のクラスまで買物ができるということです。これがすごく大きい」

『衣・食・住』を手がけるということでは、昨年、女性衣料専門店『Nエヌ+プラス』を出店、本格的にアパレル事業に参入。

 アパレル冬の時代といわれる中でのアパレル事業への参入だが、似鳥氏は「消費者の欲しいものを提供していけば売れるはず」と強調。

『N+』が狙う層は40代から60代の中高年女性。事前の調査で、この層は経済的余裕が比較的ありながら、「自分たちのニーズに合う商品がない」という不満を持っているとして、そうした潜在的なニーズに応えようとしてのニトリの参入。

 上下服を揃えて、数千円から1万円前後というお値打ちの価格でコーディネートを楽しんでもらうという戦略である。

『N+』は昨年の4月から初めていま2年目。現在17店舗まで拡大。今年はさらに5店舗増やす考え。
「手応えはもちろんあります。年数はかかるかもしれないが、前へ進めていきます。自社
店舗内の出店と外部の出店と半分ずつ、客数の多い店を中心に広げていく」

対中関係はバランス感覚を持って…

 日本は人口減、少子化・高齢化が進む。これからの成長戦略を考える上で、海外市場開拓も重要になってくる。とりわけ、お隣の中国市場にどう対応していくか──。

 価値観、人権、安全保障の観点から、米中対立が激しくなりつつある。その中で日本の進路をどう取るかという命題。

 日米同盟の中で、外交・安全保障上は同盟強化という日本の選択だが、経済面では中国は日本にとって貿易で最大相手国。米国にとっても、中国は貿易の最大相手国。また、中国サイドから見ても米国は貿易の最大相手国という関係性の中で、日・米・中の三か国ともどういう選択をするかという課題である。

 ことグローバル経済の成長ということで見れば、今後、アジア、中国が世界の成長センターになっていくという見方は強い。

 世界のGDP(国内総生産)の推移を見れば、それは一目瞭然だ。IMF(国際通貨基金)の見通しによると、アジアの世界GDPに占める比率は、2000年は7%だった。それが2020年は25%に拡大。30年には32%まで上昇すると見られる。

 日本の比率は2000年に14%とアジアの倍だったが、2010年に7%と低下。昨年は6%とさらに下がり、2030年は4%になるという予測。
「中国のGDPは間違いなく増えているんですが、おそらく近い将来、アメリカに追いつくか、同じぐらいになる。日本の貿易相手国のシェアでは、アメリカは2000年には25
%だったのが、2020年は14・7%。中国は10%から24%となり、もうアメリカを抜いてしまっています」

 こうした現実を見ながら対中国の道筋をしっかりと付けていかなければいけない。つまりは外交・安全保障と経済の両立が図れるようなバランス感覚が求められているということ。

 その意味で、同盟国で価値観を共有する米国にも言うべきは言い、同時に中国にも言うべきことを言い、米中の対話と共存が成り立つようなソリューションづくりの一端を日本は背負うポジションにある。

「ええ、それからアジアです。アジアはどんどん経済成長していますから、これから世界はアジア中心に回っていく。アジアの中のリーダーは中国にならざるを得ない。日本は世界のGDPとの比重から見ても、6%が4%になっていく。バランスを見ながら、アジアや中国といかに仲良くするかが問われているし、そうしていかないと、日本の未来はないのではないかという気がするんです」

 アジアと共に生きるという似鳥氏の思いである。

本誌主幹・村田博文

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