2021-05-23

【人気エコノミストの提言】覇権争いとバブル

米中対立が激しさを増している。米バイデン大統領は、人権や経済といった問題で、中国に一歩もひかない姿勢を明確にしている。一方中国も今年は共産党結党100周年の節目、来年秋には党大会が開かれ習氏は3期目の最高権力者の地位を保つことが予想され強硬姿勢を崩さないだろう。このまま双方が、譲歩することなく突き進めば、最悪軍事衝突も起こりかねないと不安視する人も増え始めている。

 米中の覇権争いは長期間続くとの見方が一般的だが、経済分野を見ると、少し違った見解も少数だが存在する。中国が短期間のうちに大きな動きを起こすのではとの見方だ。

 国連の人口予測では、中国の65歳以上の高齢化率は、2035年に21%を超え、「超高齢化社会」に突入し、その後の成長率は鈍化が避けられない。そこで二つの戦略があり得る。一つは、中国は成長率が鈍化するまでの10年程度の期間、高い成長を維持させ、それを背景に今まで以上の軍拡路線をとる戦略だ。もう一つは、短期間で世界のバブル崩壊を主導し、成長縮小路線の中で米国に肉薄する戦略だ。

 後者は中国もダメージは及ぶが、バブル崩壊で壊滅的なダメージを受けるのが米国だとの見立てが裏にはある。米国は資本市場に完全に乗る一方、中国は国家資本主義で資本市場に少しだけ乗っているに過ぎず、さらに、トランプとの貿易戦争やコロナ禍で、経済の内製化を進めて来たことで、中国はバブル崩壊への耐性があり、米国よりもバブル崩壊の影響を小さくできるとの分析だ。バブルが破裂し、ドルの信認が低下すれば、中国が進めるデジタル人民元の国際標準化も夢ではなくなる。また、ワクチン外交で一定の成果が出る中、苦境に陥る国々を積極的に経済支援すれば、一帯一路も大きく前進する。

 中国は、バブルという風船のどこを狙うだろうか。ポイントは、世界の金融市場の北極星「米国の長期金利」だろう。20年12月末時点で、中国は日本に次ぐ2番目の米国債保有国であり、発行済み米国債の約5%を保有している。香港も含めれば、中国は世界最大の米国債保有国となる。

 ポストコロナでは、当然金融市場に、金利上昇圧力が掛かって来る。そこで中国が、一気に米国債を売却すれば、金利上昇の歯車は加速する。我々は過去、中国経済が躍進する中で、米中の金融市場の関わりが深くなったことを、良いことだと思って来た。しかし、この戦略がもし存在するのだとすれば、中国が米国債残高を積み上げてきたのは、バブルという風船に針を刺す準備だったと言える。

 当然、米国FRBは金利上昇させまいと手を打つだろうし、同盟国も黙ってはいない。金融市場の安定に各国が動き出し金利上昇を何としても抑え込む。ただし、覇権争いが明らかにヒートアップし始めている時だからこそ、実際に行動が起きなくても、「思惑」だけで事態が急変することもあり得る。

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