2021-05-22

【コロナ危機下の不動産経営】賃借人からの中途解約に対する違約金請求

(貸しビル事業者Q.)弊社は、都心に新築したビルのワンフロアを、A社にオフィス用途、期間5年にて賃貸しました。契約書には、賃借人A社が期間満了の前に中途解約するときは、違約金として残りの期間の賃料を一括して支払うとの特約を付けました。ところが、契約から1年後にA社は、「コロナ禍でのテレワークで賃借フロアが過大になった」などとして中途解約を申入れてきました。残りの期間の賃料の一括払いを請求できますか。

(弁護士A.)貴社とA社との特約は、契約自由の原則により有効なはずですが、他者に過大な額の債務を負担させるような内容は暴利行為として無効とされる恐れがあります。貴社の請求に対し、A社はフロアを借りないのに残り4年もの期間の賃料を一括請求されるとの特約は暴利行為で無効だと主張するでしょう。裁判所はどう考えるでしょうか。

 東京地裁平成8年8月22日判決は、賃借人は英会話学院を経営する会社、期間は4年、賃借人が期間満了前に中途解約する場合は、残りの期間の賃料・共益費相当額を違約金として支払う特約がある中で、賃借人が賃料支払い困難のため僅か10カ月で中途解約を申し入れしたというケースですが、違約金が高額になると、賃借人に著しい不利益を与え、賃貸人が早期に新たな賃借人を確保した場合には二重払いに近い結果となるから、暴利行為で無効とされる部分もあると判示した上、賃貸人が新賃借人を確保するまでに要した期間は数カ月程度で1年以上の期間を要していなかったことも挙げ、残りの期間3年2カ月分の賃料等を違約金とすることは認めず、賃借人が退去・明渡をした翌日から1年分の賃料等の限度で特約を有効として、その範囲での違約金請求を認めています。

 この判決は実務界では有名であり、賃借人による中途解約の場合の違約金は、残りの期間の賃料全額ではなく賃料1年分程度であろうといった見方もあるようです。

 しかし、賃借人による中途解約の違約金は賃料1年分程度に過ぎないのが普通だと言えるかは問題です。

 たとえば、賃借人がある程度規模のある会社で諸々の取引にも精通し、あるいは対象物件の賃借を受けたいために、違約金条項など十分理解した上で契約したような場合に、残存期間の賃料全額を違約金とする特約は暴利行為ではなく有効とする判例もあります。次回に具体的な判例を紹介します。

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