2021-05-17

防衛大学校長9年の任期を終えて今、感じることとは? 答える人 國分 良成 前・防衛大学校長

國分 良成氏



生の崇高さを感じ取って…



 ―― 人の命にかかわる仕事に就く親不孝ですか。

 國分 ええ。非常に重い言葉ですね。彼は穏やかな中にも闘志を秘めた素晴らしい若者でした。ですから、訃報を聞いた後、わたしもお母様に電話を差し上げました。その時も、お母様は「覚悟はしていました。でも、早すぎた」と話されたのです。それを聞いて、わたしは言葉が詰まりました。

 一等空尉の死去のニュースに接したとき、わたしはそうかと。最後に防大で語るべきはここだなと思い、今年の卒業式は式辞の中であえて在任中に命を落とした人たちの話をしました。

 着任してまもなく山岳事故で尊い命を落とした学生がいました。滑落事故で亡くなったのですが、その彼を助けようとした陸曹も亡くなりました。彼などは新婚で、残された奥様のことを考えると言葉が出ません。

 フィリピンからの留学生も実家に一時帰国中、川で溺れた親族を救おうとして、逆に自身が犠牲になってしまいました。

 また、4年前に急性髄膜炎によって亡くなった学生がいて、本来、彼は今年の卒業式にいるはずだったのです。だから、ご両親から卒業式で帽子を投げてほしいと言われて、いちばん親しかった同級生に自分のと合わせて投げてもらいました。

  ―― 生きるということと同時に、死生観のようなものを感じさせる話ですね。

 國分 そうなんです。だから、わたしはこのように続けました。君たちはもう感づいているかもしれない。なぜ、わたしがこういう話をするかと言ったら、防大が一般の大学と違うところは、死について自然に触れる瞬間があるから。卒業式後、自衛官として「事に臨んでは危険を顧みず」と宣誓する君たちは、防大での教育と訓練を通じて死生観にも触れ、そこから生の崇高さを感じ取っているからだと。それを絶対に忘れるなよと語りました。

 そしたら、代表学生が答辞の中で、「志半ばに潰えた人たちのことも、われわれは忘れずに……」という言葉を入れていました。わたしの思いが少しでも彼らに伝わっているのかなと感激しましたが、そうした学生の感性もすごいですね。

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