2021-05-17

防衛大学校長9年の任期を終えて今、感じることとは? 答える人 國分 良成 前・防衛大学校長

國分 良成氏




日本が世界一になれるものは何か?



 ―― 学生を育てるというのは非常に難しいことですが、在任中、何か國分さんが特別意識してきたことはありますか。

 國分 わたしは在任中、『新たな高み』と『さらなる高み』という2つのプロジェクトを推進し、世界一の士官学校を目指そうと考えてきました。

 わたしは一般の大学から来ているので、その良さも限界も分かっている。防大の卒業生に大学時代やり残したことはないか聞いたら、面白いことにアルバイトをしてみたかったというのです。学生でも給料が出ますから、彼らは勝手に外に出てアルバイトなどできないわけです。そうなると、社会とどういう風に接点を持てばいいのか、一般の学生たちが非常に羨ましく感じる時があるのです。

 そこでわたしは海外を経験させようと。海外に出れば、もっと広い世界を見るので、ひとりの人間としての視野も広くなるだろうと考えました。

 ―― なるほど。では、何をもって世界一なのか。

 國分 それは難しい問いなのですが、防大は日本で唯一の士官学校ですから、国内で比較しても意味がない。そこで世界でどこに位置しているのかを考えないといけないということで、わたしは米国、英国、フランス、東南アジアも含めて、世界の主要な士官学校はほとんど行きました。その中から、何で勝負するのかを考えたのです。

 一つは、学問の中身を充実させることで研究をしっかりやろうと。これは口を酸っぱくして言い続けまして、採用する先生方のレベルもかなり上がりましたし、平成29年度の科研費(科学研究費補助金)の採択率で全国5位になるほど、先生方の研究内容もかなり充実してきました。

 ―― 全国5位ですか。

 國分 ええ。それと同時に学生のレベルも上がりました。米国の陸軍士官学校(ウエストポイント)や海軍兵学校(アナポリス)へ4カ月間派遣した学生たちがトップレベルに入るようになりました。動機さえつかんでくれると、もともと力のある学生たちですから、海外でも力を発揮してくれます。

 もう一つは、士官学校としての実践訓練も大事です。防大は大学であると同時に士官学校でもあるからです。実践訓練については、例えばウエストポイントが主催する「サンドハースト競技会」というのがあります。

 これは英国の王立陸軍士官学校(サンドハースト)の名前を使った競技会なんですが、世界の士官学校から毎年50チームくらいが参加して、長距離を背嚢を背負って小銃射撃とかゾディアック漕ぎなどしながらゴールする、準レンジャー訓練のようなことを競う大会です。

 この大会に初めて参加した頃は下から数番だったのですが、2年前の大会では防大が7位に入ったのです。7位といっても、上位5番目までは米国のチームで、6位が英国チームでした。日本人は体格が小さいし、女性も参加するのですが、これはとても嬉しかったですね。

 ―― 体格が小さいなりにできることがあると。

 國分 まずは事前の厳しい訓練です。また、人のために犠牲的精神を払うとか、集団的なチーム行動というのは日本に強みがあります。パレードで行進した時の美しさはどの国にも負けていないと思います。

 わたしがよく言っていたのは、日本が世界一になれるものは何かと突き詰めたら、最後は日本的美徳でいこうと。つまり、相手に対する配慮とか、心遣いや優しさ、あるいは細部に対する細やかさ、清潔さというのは世界にあまりありません。

 ―― なるほど。日本的な美徳は世界にも通用すると。

 國分 ええ。こうした日本的な美徳は大事なことだと思います。ただ、それを自己満足で終わらせるのではなく、グローバルな価値観の中で考えていこうと。日本的な美徳というものが世界的にどんな意義があるのか。そういうことを考え続けることが、世界一に近づけるのだろうと。抽象的ですが、そんなことを言い続けてきました。

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