2021-05-14

「水素・アンモニアは天然ガスの進化系」INPEX・上田隆之のエネルギー変革論

上田隆之・INPEX社長

日本企業初のオペレーター



 経済運営に欠かせないエネルギーの確保をいかに進めていくか――。そうした観点で注目される巨大LNG(液化天然ガス)プロジェクトが、オーストラリア北西部の沖合で動き出している。それが2018年から生産を開始した『イクシス』だ。

 LNGの年間生産能力は実に約890万㌧。890万㌧のLNGと聞いてもピンとこないかもしれないが、これは日本の年間LNG輸入量の1割強に相当する。今後約40年に渡って生産を続けることができる巨大プロジェクトである。

「イクシスは日本企業として、当社が初のオペレーター(操業主体)をつとめる大規模LNGプロジェクト。ここで生産されたLNGの約7割は日本買主向けに出荷されており、資源の無い日本にとって、天然ガスの安定供給やエネルギーセキュリティに大きく貢献するプロジェクトだと思う」

 こう語るのは、INPEX社長の上田隆之氏。

 4月に国際石油開発帝石から社名を変更し、新たなスタートを切ったINPEX。イクシスは文字通り、同社の命運を賭けた一大プロジェクトである。

 西豪州の沖合に位置するガス田から産出される天然ガスを、豪州北部準州のダーウィンにある陸上ガス液化プラントで液化し、年間約890万㌧のLNGを生産・出荷するというもの。

 このプロジェクトは何しろ規模が大きい。まずは水深250㍍の地点から、海底下4千㍍以上の井戸を掘る。そこから天然ガスを引き上げ、約890㌔㍍の海底パイプラインでダーウィンにある陸上の液化施設まで輸送する。ここで気体の天然ガスをマイナス162度まで冷やして液化し、タンクに貯めて出荷するという。

 東京から札幌までの距離が約850㌔。890㌔というのはそれよりも長い南半球最長の海底パイプラインということだ。

「海上施設には海岸から約200㌔の道のりをヘリコプターで2時間くらいかけて移動するが、その際は海へ墜落した時のための酸素ボンベがついたライフジャケットを着用しなければならない。普通は事故対応の訓練を受けないとヘリに乗れないということで、命がけというほどでもないが、現地に向かう時はそれくらい緊張感が伴う」(上田氏)

 同社は1998年に西豪州沖の探鉱鉱区を入札で取得。探鉱・評価作業や基本設計作業などの検討を経て、2012年に投資決定。その後、6年の開発期間を経て、18年7月からガス生産を開始。約20年の歳月をかけ、おおよそ総事業費4兆円を投資したプロジェクトである。

 日本企業としてこれだけ大きなプロジェクトでオペレーターをつとめるのは同社が初。それだけに上田氏の期待も大きい。

「二つの大きな洋上生産施設では、何百人ものスタッフが交代制で働いていて、一人でも新型コロナウイルスの感染者が出ると生産に影響が出るということで、感染対策には相当気を使っている。オペレーションが順調に進んでいるということは現場の従業員の努力のたまもので本当に有難いこと」(上田氏)

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