本来あるべき姿を日頃から考えて
─ 同業他社がやらないのに、投資をしようと思った理由は何でしたか。
中山 今回は本当にたまたまですけど、一つだけ言えるとしたら、どんな業種、どんな企業であっても、自分たちの本来あるべき姿というものを日頃から考えておくべきだということですね。世の中はどう変化しているのか。そして、自分たちの業界はどう動いていて、お客さんは何を求めているのか。そうした原点を常に考えて、準備していくことが大事だと思います。
─ これは危機管理にもつながる話ですね。
中山 仰る通りです。だから、わたしは〝備えなければ憂いあり〟と。
─ 備えあれば憂いなしではなくて?
中山 そうです(笑)。本来、商売で競争するということは、ライバルと競い合って勝つか負けるかという話ではありません。A社には負けるな、B社にも負けるなというのも大事ですが、しかし、それは商売の本筋から考えたら間違っている。われわれの商売の本筋というのは、お客さんが求めているモノを早くお届けすることであって、ライバル企業と競争するために商売をしているわけではありません。
やはり、大事なことはお客さんが何を求めているか。そのために必要なサービスを提供することでわれわれは対価をいただく。それが商売の本質ではないでしょうか。
誰もが思いつく発想と方向に成長のエネルギーはない
─ これは大事なことですね。全産業に共通して言えるんじゃないですか。
中山 はい。ですから、言葉が難しいんですけど、われわれはお客さんのご機嫌を取って、ヨイショして買ってもらおうなんて思っていません。
その証拠に、どこの企業でもよくお客さんのネットワークとして懇親会などをつくるじゃないですか。でも、当社では15年くらい前に止めました。
─ それはなぜですか。
中山 というのも、いわゆる昭和スタイルの営業と言いますか、お客さんのご機嫌をとって商売するスタイルはもう時代に合わないのではないかと。昔ながらの努力と根性、熱意による営業で、あそこの会社のセールス、よく顔を出してくれるから買ってあげようという営業スタイルは、今は少し違うのではないかと思うんですよ。
もちろん、仕事をする中で人と人との接点を持ち、信頼関係をつくることは決して無駄ではありません。ですが、お客さんの立場で考えたら、どこの会社と付き合えば、自分たちの会社が成長できるかというのが第一で、本筋を間違えてはいけないなと思います。
─ しかし、社内でもったいないという意見は出なかったんですか。
中山 そういう意見もあったかもしれませんが、わたしの一存で決めました。
そもそも多数決で決める答えというのは、どこの会社でもだいたい同じ結論になります。それに多数決で出た結論というのは、仮に失敗しても結果に対して皆、無責任なんです。多数決で決めていいこともありますが、やはり本当の意味での最後の経営戦略というのは、トップの決断になるかと思います。
─ 多数決で決めたことは結果に責任を持たないというのはあるかもしれませんね。
中山 そうなんです。誰もが思いつき、誰もが進む方向に成功の文字はないんですよ。
わたしは企業の成長にとって、一番のエネルギーは独創力だと考えています。独創力とは、誰もが思いつかないことを考え、誰もやらないことをやる力だと思います。誰もが思いつく発想と方向に成長のエネルギーはないのです。