2021-04-30

旭化成が東芝、東北電力、岩谷産業と進める再生可能エネルギー活用の【低コスト水素づくり】

福島県浪江町にある世界最大規模の10MW級の水素製造装置

サプライチェーンを構築し総合力で勝負

「水素を作る技術が世界一だから、カーボンニュートラルを実現できるわけではない。総合力が問われている」(田村氏)

 太陽光、風力発電と日本は技術開発でリードしながら、ビジネスモデルで負け、世界でのポジションを失った。

 再生可能エネルギーに関しても欧州は2014年に気候変動対策をEU加盟国間で合意。19年には「欧州グリーン・ディール」を発表し、50年のカーボンニュートラルに向け、産業政策の見直しを進めてきた。その結果、デンマークは66%、ドイツは約40%を再生可能エネルギーが占める。日本は10%弱だ。

 出遅れた日本だが、菅首相の「50年のカーボンニュートラル」宣言でCO?を制約要因から成長要因に転換し、企業が水素事業に参入できる環境ができてきた。

 欧州は水素を供給するパイプラインが整備されている他、再生可能エネルギーを活用した安価な水素製造の道が見えている。

 一方の日本には、安価な電源もパイプラインもない。

 だが、「だからこそイノベーションが必要であり、デジタル技術を活用した連携による新たなビジネスモデル作りに成功すれば、パイプラインに依存しない日本独自のビジネスが実現できるかもしれない」と田村氏。

 特に日本企業が持つ様々な技術は大きな強み。再生可能エネルギーが不安定なのは世界中どこでも同じ。「水素を作る技術、CO?を減らす技術などトータルで効率的な枠組み」など総合力で勝負する必要があるからだ。

 2050年に向けて残された時間は約30年。「研究だけ先行しても実用化できなければ意味がない。旭化成は実業と研究を結び付けてきたDNAがある。目標が定まれば、技術者も大きな力が出せる」と田村氏は語る。

 また「部分実証は(日本だけでなく)やれるところでやり、実績を積む」など開発スピードを速める他、一部でも事業化できるところから事業化するなど採算性も重視していく。

「食塩電解の事業では電解槽と膜を扱っているが、提供しているのは〝安定運転〟や〝安定供給〟といった無形資産。水素事業でもオペレーションそのものをデータの活用により最適に行うことが重要になってくる。サプライチェーン全体をデジタルでつなぎ、お客様の要求に応えていく。これは旭化成1社ではできない。その意味でも、目的を共有できるパートナーが重要」(竹中氏)だ。

 エネルギー問題は安全保障問題にも絡む。各国が開発競争にしのぎを削る中、部材などの要素技術を持つ日本はオールジャパンで実績を上げられるか。その構想力が問われている。

竹中克・旭化成上席執行役員研究・開発本部長

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