年々、難易度の上がる新薬の開発。こうした中、戦略の変更から5年。がん領域に注力する方針を掲げた第一三共が想定を上回るスピードでがんの新薬開発を軌道に乗せている。
第一三共が新中期経営計画で、売上収益を1兆6000億円まで伸ばす目標を掲げた。がん領域への集中投資を継続し、新薬開発の速度を加速させる考えだ。
第一三共ががんを最重点領域としたのは、前中計を発表した2016年3月。本来は血液凝固を抑える新薬「エドキサバン」をグローバル展開する予定だったが、米国市場で失敗したため急遽がん領域を前面に押し出すことになった。それだけに、計画通りに事業が進展するか疑問の声も聞かれた。しかし、新薬開発は想定を上回るスピードで進展。新たな経営の柱に成長するめどがついた。
牽引するのは抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる新たな作用の新薬だ。がんの薬物治療では、正常な細胞にも影響して脱毛や吐き気をはじめ臓器への障害などの副作用が発現する。近年はがん細胞だけに作用する
「分子標的薬」が実用化されているが、そうした中で注目度が高まっているのがADCだ。がん細胞に選択的に結合する抗体と特異的に攻撃する薬物を合わせたもので、抗体医薬品と化学療法剤の長所を併せ持っている。第一弾の「エンハーツ」は20年1月に米国で発売された。
がん領域の飛躍に極めて重要な役割を果たしたのが、オンコロジー研究開発グローバルヘッドのアントワン・イヴェル氏だ。
16年4月に英アストラゼネカから移籍、エンハーツの共同開発・販売契約を同社と結び、製品化へのスケジュールを大幅に短縮した。今年5月で第一三共を退職するが、中期的な経営の柱であるADC3品目の最大化に道筋をつけた功績は多大。彼なくしてADCの成功は語れない。
新中計では売上収益1兆6000億円のうち、がんは6000億円を占める規模に拡大する。エンハーツが順調に市場浸透していることに加え、他のADCの開発も進展。眞鍋淳社長兼CEOは「“がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業”というビジョンの実現にめどをつけた」と自信を深めている。
30年に目指すべき企業像として「がん領域で世界10位以内」を掲げる第一三共。企業買収に頼らず、自社創薬で、がん領域を主軸とする地位を固める。