2021-04-27

日米同盟を基本軸に米中にも直言できる外交関係の構築を

イラスト:山田紳

「収容施設」に入れられたウイグル族の女性らが組織的な性的虐待を受けたとの証言を伝えた。

 中国が「テロ対策の再教育」と透明性のある説明をしないまま反発する中、欧米は具体的な行動に出た。3月22日、米国、欧州連合(EU)、英国、カナダは協調して制裁措置を発動した。中国共産党の自治区幹部や「収容施設」関連の団体に渡航禁止や資産の凍結を科した。つまりG7のうち、日本だけが協調しなかった。

 中国は「ウソと偽りの情報に基づいた制裁」(中国外務省報道官の華春瑩)と猛反発し、後に対抗措置もとったが、欧米が意に介する様子はない。ブリンケンは制裁時の声明で「友邦諸国との連帯」を強調した。安全保障面などでは強固な日米関係だが、人権問題では米国の「友邦」ではないことになる。

 日本には、欧米のように人権問題に関する制裁の法律上の規定がなく、官房長官の加藤勝信は3月の記者会見で「人権問題のみを直接、明示的な理由として制裁を実施する規定はない」と明言した。ならば必要な法整備を進めればいいものを、菅政権にその意思は全くない。

 理由の一つとして指摘されるのが、中国との経済上の密接なつながりだ。日本にとって中国は2007年に米国を抜いて以来、最大の貿易相手国となっている。19年の輸出入総額は33兆円超で全体の21%を占める。

 しかし、米国にとっても最大の輸入相手国は中国。EUでも昨年、中国が米国を抜き、最大の貿易相手国になった。ある意味で中国との経済上のつながりは欧米と日本で差がない。

 1989年6月に北京で中国当局が民主化を求める市民を虐殺した天安門事件に際し、日本政府は直後のフランス・アルシュサミットで唯一、共同制裁に反対した。対中円借款の一時凍結などの措置はとったが、西側諸国で真っ先に中国との関係修復に動いたのが日本だった。

 その後、中国は日本の支援もあって経済発展を続けた。同時に軍備拡大による東・南シナ海への「法の支配」に基づかない進出を強め、尖閣諸島周辺への領海侵入を常態化させている。こんな「見返り」を受けながら、日本政府は30年以上の時を経て同じ轍を踏もうとしている。

 米国は単に中国と対立しているだけではない。バイデンは3月31日、8年間で総額2兆㌦(約220兆円)の大規模インフラ投資計画を発表した。コロナで打撃を受けた経済の回復策で、サプライチェーン(供給網)の見直しも打ち出した。

 バイデンは2月の時点で、中国への依存が高い半導体やレアアースなどの分野での供給網を100日以内に見直すと発表した。中国以外の国との連携強化で見直しを一層進める方針で、バイデンは計画発表の演説で「中国との国際競争に勝つ」と訴えた。

 特に価値観や人権、安全保障の領域で脱中国を打ち出した米国と比べ、日本はどうか。日本企業にも生産拠点や調達先を中国以外に移す動きは出ている。菅も昨年の就任直後の記者会見で「コロナで浮き彫りになったのはサプライチェーンの見直しだ」との認識を示し、政府は東南アジアなどへの供給網分散に補助金を出している。

 とはいえ、中国は日本にとって最大の貿易大国。中国を抜きにした経済運営は考えにくい。米国と同じ価値観を共有し、人権や安全保障では共同歩調をとれるが、経済の領域に入ってきたときにどうするかという緊張感が求められる。ただ、その政治領域でも日本に曖昧さが残っているのは事実だ。

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