2021-04-24

私の雑記帳 『財界』主幹・村田博文

危機の今こそ


『不安な個人、立ちすくむ国家、モデルなき時代をどう前向きに生き抜くか』─。

 数年前、経済産業省の若手官僚約30人が菅原郁郎事務次官(当時)の下で中長期の経済社会について、議論をかわしてまとめたディスッションペーパー『21世紀からの日本への問いかけ』。その中で使われたフレーズは日本の現状を的確に捉えている。

 特に今はコロナ危機に見舞われ、日本の嫋弱な部分も露呈。ワクチンにしても欧米産の輸入に頼らざるを得ず、接種にしても、英国、米国、そしてドイツなどと比べても遅さが目立つ。

 英国などが4月上旬の段階で国民の半数が接種を受けたというニュースが流れるたびに、日本はなぜ、こうも手を打つのが遅いのかという疑問が湧く。

 新型コロナの発生地といわれる中国は1党独裁の下、強烈な国家管理で感染症に対応。欧米の主要都市はロックダウン(都市封鎖)で外出禁止の措置を即座に取る。

 日本は、死者数が欧米や南米などと比べてもはるかに少ないが、緊急事態宣言解除した途端、第4波に見舞われた。またぞろ医療崩壊の危機が叫ばれる。

 危機管理をどう進めるか。

リーダーと使命感


 各界のリーダーの中には、それこそ犠牲的精神の伴なうノブレス・オブリージュ(高貴な使命感)を果たそうという人たちもいる。先駆的な動きである。

 若者の間でも、自然災害時に被災者を支援するボランティアに身を投ずる人たちも増えている。

 東日本大震災(2011)が発生した直後、東京など大都市では整然と歩きながら帰路につく姿に世界のメディアが感心し、その冷静さを世界に発信した。

 東北では、中国から短期労働で働きにきていた女性従業員たちを安全な高台に誘導し、自らは津波にのまれて、命を落としたリーダーもいた。

 日本人の律義さ、誠実な国民性は世界が認める。本来、個々人はすばらしい能力を持っているのに、個々人の集合体である国のレベルとなると、立ちすくんでしまう。

 『個』と『全体』の関係はいかにあるべきか─。『個』の生存権や自由は認めつつ、『個』の〝義務と権利〟の関係を含めて、『全体』との関係性があいまいになってきているのではないか。

國分良成さんの感慨


「若者が好きになりました。使命感のある学生が日々育っていく。それを実感する9年間でした」と語るのは、今年3月末で防衛大学校長を退職した國分良成さん。

 國分さんは1953年(昭和28年)11月生まれ、東京都出身。慶応義塾大学法学部長兼大学院法学研究科委員長を経て、2012年(平成24年)4月から第9代の防衛大学校長を務めてきた。

 防衛大の設立は1952年(昭和27年)。翌28年から第1期生を採用。自衛隊の幹部を育成する大学校として運営されてきた。

 講和条約の立役者、吉田茂首相は平和国家・日本をつくりあげていく中で防衛大学校の教育を重視。国際的素養と幅広い見識を持つ人材を育てようと、初代校長をだれに任せるかを、慶應義塾の実力者、小泉信三(塾長期間は1933―1947)に相談したといわれる。

 小泉氏は上皇陛下が皇太子時代の〝ご養育係〟を務めた人物。上皇妃とのご成婚を舞台裏で支えた人物としても知られる。

 吉田首相はその小泉氏を初代校長に推そうという考えを持っていたといわれるが、小泉氏は慶應の運営で苦楽を共にしてきた槇智雄氏を推薦する。

 槇氏はイギリス憲法史や政治制度の専門家で、英国流のリベラリストとして知られ、いわゆるリベラルアーツ(教養)型の教育を防衛大で推進。

 防衛大の歴代校長は、第3代の猪木正道(前職は京都大学教授)、第6代の松本三郎(慶大教授)、第8代の五百籏頭眞(神戸大学教授)と多彩な人物が選ばれている。

若者が育つ場を…


 そうした歴史と伝統を受け継ぐ中、國分さんは日本の防衛・安全保障の現場を担う人材教育の任に9年間当たってきた。

 「使命感のある若者が夢と希望をつかみ取っていく。そうした若者が育っていく契機をこちらは提供する。動機づけを与えると、若者は逞しく、自ら育っていきます」

 モチベーション(動機)の向かうべき方向とは何か?

 「人のため、世のために生きるということですね」と國分さん。

 自然災害を含めて、いろいろな危機が訪れる今の世界にあって、こうした使命感のある人材が育つ場は必要。教育の力は大きい。

アパグループの社会貢献


 コロナ禍で医療崩壊の危機に直面している今、ホテルでの宿泊療養は実にありがたい支援になる。

 第1波の昨年4月、政府の要請に「引き受けます」と即答したのはアパグループ代表・元谷外志雄氏であった。

 夫人でアパホテル社長の芙美子さんとの連携で、アパグループはホテル界で一大勢力に成長。コロナ禍で同業の大半が赤字なのに対し、同グループは黒字を確保している。

 「所有と運営、そしてブランドの3つを自前でやっているのが当社の強み」と元谷芙美子社長は語る。

 世のためになる事は先鞭付けて実行というアパグループの思想だ。

ラグビー精神で…


 環境変化は実に激しい。その中で経営のカジ取りをどう進め、どう漕ぎ抜くか──。経営トップには緊張感のある日々が続くし、厳しい決断を迫られることへの覚悟も求められる。

 グローバルに経営を展開し、グループで5万6000人の雇用を抱える日本郵船社長の長澤仁志さんは、海運を軸に航空貨物、陸上輸送の総合物流を強みに、「ポートフォリオ戦略で柔軟に対応していく」と抱負を語る(トップレポート参照)。

 コロナ危機の中で、ヒトの移動はパッタリ途絶え、航空会社(エアライン)は大幅赤字。モノの移動を担う海運は製造業の復活もあって、昨年後半から業績も好調。同じ輸送の領域でも明暗を分ける。

 21年3月期の業績好調といっても、長澤さんは文字どおり、地に足のついた経営を手がけていくと強調。

 学生時代にラグビーで鍛えたせいか、堂々とした体躯。入社後もラグビー愛好会で心身を鍛錬してきたという。

 ラグビーの良さとは何か?  と聞くと、「One for all , All for one.(1人ひとりがチーム全体のために、全体は1人のために)ですよ」という長澤さんの答え。

 『個』と『全体』のバランス良い関係が企業の体力を強くする。

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