金融機関の公的資金注入や破綻処理の実働部隊となる預金保険機構理事長に、元金融庁企画市場局長の三井秀範氏が就任し、動向に注目が集まっている。
前任の三國谷勝範氏が元金融庁長官だったため、同庁内や金融界では当初、前長官の遠藤俊英氏が後を襲うとの見方が有力だった。そんな下馬評を覆して三井氏が起用されたのは、2001年に同庁に転じて以降、「制度屋」として大手行などへの公的資金注入や預金保険法の改正の重要場面に多く携わってきたキャリアを買われたからだ。
三井氏を巡っては2019年の企画市場局長時代に「年金だけでは老後資金が2千万円不足する」という衝撃的なシミュレーションを盛り込んだ報告書を取りまとめ、永田町や世論を騒がせた過去もある。
にもかかわらず、菅義偉政権が預保トップへの就任を容認した背景には「苦境に喘ぐ地域金融機関の整理に抜本的なメスを入れる意図がある」(同庁幹部)とされる。
現在は上場地銀78行・グループの半数以上が20年4―12月期の連結最終損益が減益か赤字に陥る状況。同庁幹部によると「コロナショックに伴う会計基準の緩和以前には経営破綻を覚悟した地銀もあった」という。
同庁は先手を打って金融機関への公的資金注入条件を大幅に緩和、大手行を含む各行から集めた預金保険料を原資にシステム統合を支援する「再編補助金」を新設するなど手を打つが、問題はこれらの手段をどう適正に活用できるかだ。
カギを握るのが、実働部隊の預保で、経営の先行きが危ぶまれる地銀などに対して公的資金注入や再編などの助言が求められる。「この重要局面で預保の制度や役割を知り尽くした三井さんが理事長に登板したのはまさに適材適所」と同庁幹部は解説。三井氏が期待に応えてどこまで手腕を発揮できるか。「老後資金2千万円問題」で傷ついた名誉挽回もかかるだけに、霞が関でも注目されている。