─ それでも医療現場の逼迫が情報として数多く発信されているのはどうしてですか。
相澤 政府の発信が一つですね。逼迫度も重症者の方に用意したベッド数のうちの何%が埋まっているかが、逼迫しているかどうかの判断の一つの基準になっています。その意味でいくと、何をもってそう判断するのかがよく分かりません。
というのも、患者さんも重症化のベッドにずっと留まっているわけではありません。状態が落ち着けば中等症のベッドに移されますし、検査で陰性になったりすれば、一般病棟にも移されます。その患者さんにとって一番適切な治療あるいは療養を受けられる場所に移動していけばいいのですが、その移動がうまくいかないと詰まってしまう。
─ どうやってそのミスマッチを解消すべきですか。
相澤 今では患者さんの治療データはレセプト(保険者に請求する診療報酬明細書)を見れば、その日に何をやったか分かる仕組みになっています。入院して10日目で何をやっているか患者さんごとに分かるのです。
例えば、呼吸器管理をやめれば、呼吸器管理の項目がなくなりますので、その患者さんは呼吸器が外れたと分かる。そういう人たちが重症者のベッドにいるとすれば、他のベッドに移してもいいのではないかという判断ができます。そういう患者さんが何割かはいらっしゃったと。
─ 救急車の搬送先がないという問題がありましたが。
相澤 搬送先が見つからないという問題はコロナ以前からありました。例えば脳卒中やくも膜下出血で重体の病気になっても、受け入れ先が見つからず、十何番目の病院でようやく引き受けてくれるということは普段から起こっていたのです。ですから、感染症だから起こったわけではなく、普段から円滑な仕組みが構築されていなかったと。
目先の物事について感情的になってしまうのではなく、しっかりとしたデータに基づいて物事をきちんと見ていかなければいけない。なぜうまくいってなかったのか。もともと連絡・調整がうまくいかないような仕組みになっていなかったか。本当の真実は何かというところを捉えて、物事をきちんと話していかなければいけません。
─ これは危機管理上、日本全体の仕組みの問題として考えなければいけないですね。
相澤 そうです。米スタンフォード大学で医療の統計を専門としている私の知り合いからは「日本はデータをよく集めるけど、そのデータを使って何をしたいかというビジョンがないね」と言われました。きちんとデータを集めて、そのデータを基に分析をして、それを使える情報として出すと。レセプトのデータなどは世界に冠たる医療情報なのですからね。