2021-04-20

トヨタ自動車・内山田竹志会長が語る”水素の未来と課題”

内山田竹志・トヨタ自動車会長



 ── 水素普及を阻む要素を解決していくわけですね。

 内山田 はい。この規制に関しても特定の団体の産業界のエゴやメリットを求めるものではなく、水素社会を実現するために、いま阻害要因になっている規制を直して欲しいと提言していくものになります。お陰様で発足時の会員数は88社でしたが、今は2倍以上になりました。

 ── それだけ水素に関心を持っているということですね。

 内山田 ええ。そもそも日本は水素に関しては先進国でした。しかし、今はおそらくEUが最も積極的です。中国も電気だけではなく、水素もやると宣言しています。中国は一度政府が決めてやり出せば、滅茶苦茶スピードが速いし、量もあります。ですから、手応えはありますけれども危機感も大きいですね。

 ── まさにここが勝負所になると言えますね。

 内山田 最後のチャンスです。日本が水素社会の実現を通じて新産業の創出をやる。これは各産業に是非頑張っていこうと言っていますし、政府もそのための支援をしていただきたい。3月16日に提言書を政府に提出しましたが、その内容は水素の生産、デリバリー、使用までの全バリューチェーンに言及しています。

 特にこれからやらなければならないことは、水素そのもののコストを下げることです。日本はまだまだ高い。ですから、まずは水素のコストを下げなければならない。そこで政府にやって欲しいことは、水素の使用量を増やすという政策です。量が増えるとなれば、産業界も投資しやすくなりますからね。それから規制の緩和です。

 ── 欧州は安いのですか。

 内山田 もちろんです。EUはカーボンフリーという最も安い電気が30%もあります。その電気を使って水を電気分解していくので、CO2フリーの水素をいくらでも作れます。しかもEUは各国が地続きで電力も融通し合っている。北欧の電力は風力ですが、自国では使い切れていないほどです。しかし、日本は島国ですから、エネルギーが閉じています。そういうハンディキャップもあるのです。

 それでも20世紀は石油が自国で採取できないというハンディキャップの中で、日本の産業は競争力を発揮してきました。ですから、今のエネルギー以下ぐらいでやれるようにすれば、ある程度、国際競争はできると思います。ただ世界はこれまでのエネルギーよりも、安くやるといってるわけですね。

 ── 日本の電源構成で見ても、再エネが約17%ですね。

 内山田 ええ。ただ先ほど申し上げたように、世界各地では再エネが一番安く電気を作ることができるようになっています。特に日本の太陽光発電のコストは1kWh当たり十数円ですが、世界ではもう3円から2円に突入しており、既に1円台にチャレンジしているほどです。

 ── 世界に拠点を持つトヨタが再エネ事業者になるということは考えられないですか。

 内山田 それは多分ないと思います。出資など別の形で参画するかもしれませんが。例えば、日本では発電と送電が別々になっており、従来の地域別の発電所以外にも小さな発電所がたくさんあります。そういったものに当社も投資しています。

 一方で、当社の世界の工場、例えばインドではソーラーパネルによる自家発電、ブラジルでは風力発電により工場で使う電気を賄っています。これによりグリーン電力比率は、インドの工場では90%以上、ブラジルではほぼ100%となっています。

 インドも水力発電などが結構ありますし、ソーラーパネルに手厚い補助金を出してくれます。そして国土が広いので土地はいくらでもある。自分で土地を手当てして、そこにメガソーラーを作れば、電気代もトータルで安くなります。しかも、SDGsやESG経営ということで評価もされる。しかし日本だと、そういう環境対応がみんなコストアップになってしまうのです。

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