2021-04-14

三井住友海上火災保険・舩曵真一郎社長「損害保険の本質である社会課題の解決に向け、デジタル技術を活用していく」

舩曵真一郎・三井住友海上火災保険社長

ふなびき・しんいちろう
1960年5月東京都生まれ。83年神戸大学経営学部卒業後、住友海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)入社。2012年三井住友海上経営企画部長、17年取締役専務執行役員、18年からMS&ADインシュアランスグループホールディングスグループCDO(デジタライゼーション推進)を兼務、20年取締役副社長、21年4月代表取締役社長に就任。

「社会的課題の解決に、デジタル技術をいかに使うか。アイデアの勝負になる」と話す。自然災害、気候変動などリスクが高まる中、損害保険の役割は重みを増す。さらにコロナ禍で社会のデジタル化が加速する中、三井住友海上も顧客とのやり取りをスマホで完結できる仕組みを開発。舩曵氏は「長い道のりの中の、一つのつまずきや失敗でくじけてはいけない」という意味の言葉を胸に経営に当たる。

スピード感を持って考え、決めていく


 ── コロナ禍の中での社長就任となりますが、改めて抱負を聞かせて下さい。

 舩曵 改めて社会のリスクをしっかり受け止め、解決するという、社会に貢献する事業としての責任、使命を考えていかなければならないと思っています。

 足元では新型コロナウイルス感染症が、社会に対する影響として大きいわけですが、世界的に見ても日本の場合は自然災害リスクが課題としてあります。

 さらには気候変動リスクに対してどう取り組むかは世界的な共通テーマであり、企業としての責任です。特に我々は損害保険会社としてどう取り組むか、どう貢献するかは、認識すべき重要な点であり、経営に求められていることだと考えています。

 ── 内定会見で前社長の原典之さん(現・会長、MS&ADインシュアランスグループホールディングス社長)が、社長に指名した理由として実行力、決断力、行動力を挙げていましたが、舩曵さんは何を意識して取り組もうと考えていますか。

 舩曵 スピード感です。例えば18世紀に英国で産業革命が起きてから今日に至るまでの年月というのは、長い地球の歴史の中では、ほんの少しの長さでしかありませんが、これだけ大きな変化と、それに伴う影響を地球に及ぼしています。

 そう考えると、課題を認識し、それをいつまでに、どのように解決しなければならないかを、スピード感を持って考え、決めていくことが、経営をしていく上で最重要な事柄なのだろうと考えています。私自身に実行力があるかどうかではなく、実行しなければいけないという気持ちを持つことが重要なのではないかと思います。

 今、我々が取り組むべき社会的課題は何なのか、それをどういう形で解決すべきなのかについて、社長だけが考えるのではなく、社員全員一丸となって取り組めるようにしていくにはどうしたらいいのか。それを考えることが社長に求められていることなのではないかと。

デジタル化は知らない者同士で


 ── MS&ADグループのCDO(デジタライゼーション推進)を務めてきた他、米AI(人工知能)保険大手のHippoとの提携をまとめるなど、デジタル化を推進してきましたが、今後どう取り組みますか。

 舩曵 デジタルはあくまで手段だと考えています。社会的課題を解決するために、デジタルなどの技術をいかに使うか。そのアイデアの勝負になりますから、その知恵を出すことが最も重要なのだと思います。

 ただ、アイデアや発想が最も重要ですが、最も難しい部分です。そのための体制構築は我々経営に課されたテーマです。この領域は、今までにない技術を、今までにない価値観で考えていくことで初めて、良い使い方を導き出すことができますから、取り組むメンバーは多様な人材で構成されていなければ難しい。

 仕事において「同じ釜の飯」を食べた仲間で取り組むべき領域と、そうでない領域とがあるとすると、デジタルは知らない者同士で取り組むことで新たな知見が培われ、アイデアが生まれてきます。そうした組織をつくり、運営していくことが経営のミッションです。

 ── コロナ禍は、世の中の流れを加速させましたね。

 舩曵 そうですね。リモートでビジネスをする意義、価値観は社会共通のベクトルになったと思います。

 当社ではAIを活用し、代理店などの営業を支援するシステム「MS1ブレイン」を開発しましたが、これによって業務の効率や、確実性を高めていこうと取り組んでいます。このAIはNECが米シリコンバレーで設立したdotData 社のものです。

 さらに、その延長で代理店とお客様との間のやり取りをスマートフォンで完結する仕組みを2月24日にリリースしました。代理店のPC、タブレット端末の中に自動車保険、火災保険の中でお客様におすすめしたい商品、あるいはライフプランに合わせた商品のご案内などをするAIが組み込まれています。

 また、メッセージはお客様のスマートフォンに送ることができますし、ご質問などがあればスマホ上のビデオチャットでのやり取りが可能です。これはソフトバンクが提供するビデオチャットプラットフォーム「Surfly」を導入しました。

 これによって、お客様が望む時に、直接会わなくても会話ができ、そのまま契約の手続きもスマホで完結します。AIでおすすめをだして、手続きもスマホで完結できる仕組みは、世界を含めての初めてで、まさにコロナ禍のリモート社会において望まれている機能を提供しています。

 ── 契約者の反応は?

 舩曵 反応はいいですね。新たな取り組みを始めると、最初は苦情をいただくことが多いのですが、今回は非常に好評です。海外でも「保険業界に革新をもたらした」として賞を受賞することができました。

 他社も追随してくれており、こうした仕組みが業界全体に広がると、お客様の保険に対する考え方や、代理店の皆さんの仕事の仕方が変わり、進歩していくことになると思います。

 我々の業務的にはペーパーレスにつながっていきます。当社でも、自動車保険において紙の申込書を使用して手続きしている契約が足元で約350万件あります。また、紙の保険証券や約款も、環境配慮の観点から、その削減は重要な課題です。

 メールだけ送付して確認して下さいというのではお客様も不安に思われますし、不親切です。そこでスマホでご契約した際に、アプリ内で契約内容をいつでも確認したり、不明な点があればアプリ内で検索して回答を確認できるようなれば、その方がお客様にとっても便利です。

 会社から新たな仕組みをつくって押し付けるのではなく、お客様が必要に応じて自ら使う仕組みにできているのではないかと思いますし、コロナ禍でリモートの概念が普遍的になっている現状を見れば、必要不可欠な仕組みだと考えています。

 保険は商品が複雑ですから、説明の充分性、納得感を確保することが非常に重要です。それを利便性とどう両立させて作り上げるかが課題でしたが、AIなどの技術で解決できました。

 ── 舩曵さんはシリコンバレーなどに行った時にはどういう刺激を受けましたか。

 舩曵 社会課題を認識し、それを解決する仕組みをつくろうという意志、熱意、カルチャーに強い刺激を受けました。

 私はこの会社に入社して37年のうち、25年間は営業をやってきました。お客様の抱えている課題を解決するために、自社の商品をどう役立ててもらうかを考え続けてきましたが、シリコンバレーを見て、社会全体というスケールで課題を認識し、仕事をしていくことの重要性を改めて感じることができました。

 ── 保険の本質は社会課題の解決だと言えますね。

 舩曵 そう思います。一方でそれはビジネスですから赤字でやるものではなく、事業の持続性をしっかり考えなければなりません。保険料をいただき、お支払いできるという体制、資本を持つことが非常に重要です。

 ただ、従来はリスクを解決する手段が統計に寄りすぎていたものが、デジタル技術の進展によって解決の選択肢が広がったということなのだと思います。その広がりをしっかり見て、見つけていくことができるかが大事だと思っています。

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