2021-04-13

りそなHD社長・南昌宏の「ソフトパワー」戦略 運用商品、店舗改善に注力

南昌宏・りそなホールディングス社長

地方銀行の再生は大きな課題。野村ホールディングスやSBIホールディングスなどが提携を進めているが、りそなホールディングスはまた違うやり方を模索。横浜銀行には運用商品、常陽銀行・足利銀行にはスマホアプリと店舗改善のソリューションを、資本を伴わずに提供。「ウィン・ウィンの関係を目指す」という南昌宏氏が進める提携戦略とは。マイナス金利下で融資では利益を上げにくい中、新たな収益源をどう探るか──。

後継者難に悩む企業をファンドで再生


「地域に根ざして、リテール(個人、中小企業向け)のお客様の声に真摯に耳を傾け、一番いい選択肢、ソリューションは何かを考え続ける」と話すのは、りそなホールディングス社長の南昌宏氏。

 南氏は2020年4月1日に社長に就任したが、1週間足らずの7日にはコロナ禍を受けて緊急事態宣言が発令された。まだコロナの実体が見えない中、「手探りだったが、お客様の資金繰りだけは万全の態勢で」という意識で取り組んできた。

 3月中旬時点で、りそなホールディングス傘下の銀行のコロナ関連融資は5万6000件超、3兆2000億円超に上る。

 資金繰り対応が峠を越えた後は、企業も新たな展開を考える必要に迫られた。コロナ禍によって人々の生活や価値観、常識が変容、新たな社会課題も生まれ、その新たなニーズに対してサービスや商品を提供しなければならなくなったからだ。「ここでお客様に適時、適切なサービスを提供できるかどうかが、銀行の勝負どころ」と南氏。

 企業の戦略変更のサポート、事業や資産の承継、さらには経営改善に向けたキャッシュフロー、バランスシート(B/S、貸借対照表)の見直しなど、対応すべき事項は多岐にわたる。

 例えばB/Sの改善に向けては、日本政策投資銀行との連携で100億円のファンドを組成した他、21年1月に投資専門子会社「りそな企業投資」を設立。4月に100億円でファンドを組成、後継者難に悩む企業の株式を取得し、企業価値を高めて他社に承継していく。

「〝伴走型〟で、しっかり対話を重ねながら次世代に向かう選択肢を強化していきたい。日本を支えている中小企業さんが持たれている価値、技術を次世代に円滑に移転していくのは、我々銀行、特にリテール金融としての責務だと思う」(南氏)

スマホアプリは「手元にある支店」

 またコロナ禍は、社会のデジタル化を加速させた。「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を聞かない日はないほどだが、りそなは銀行としてリアルとデジタルをどう融合させていくのか。

「DXという時に、どうしても『D』に目が行きがちだが、本質は『X』、トランスフォーメーションの側にある」と南氏。

 つまりデジタルを使って、事業の構造やプロセスをどう変化させていくかが大事だということ。その中で、りそなはデジタルを「顧客体験を変える」、「新しい価値を提供する」、「コスト構造を変える」ことに活用する。「この本質を見失うと本末転倒になってしまう」(南氏)

 これまでりそなは、長きにわたって、店舗などで顧客と対面する中から得られる情報を価値に変えてきた。ただ、法人顧客は約50万社、
個人顧客は約1600万人だが、りそな側が能動的にアプローチして商品、サービスを提供できているのは、この中の10%程度だという。それ以外の顧客は「口座はあるけれども……」という状態で、そこにジレンマを感じていた。

 そこでりそなは4年ほど前からデジタル強化に注力。南氏は社長就任以前、店舗やスマートフォンアプリなどデジタルを融合させる「オムニチャネル戦略」を担当、スマホアプリ「りそなグループアプリ」の開発を主導した経験を持つ。

「私はスマホアプリを『非対面のデジタルチャネル』だと考えている。お客様の手元に支店がある、というコンセプト」

 スマホを通して顧客と双方向のコミュニケーションができ、かつ顧客が銀行に求める基本的な取引を3ステップ程度で完結させることを目指して開発。

 付加価値の高い非対面チャネルをつくることでリアルとの融合に価値を出すと同時に、DXによってリアル側の価値をさらに高めるという戦略を採ってきた。この融合によって、データを通じて事前に顧客のニーズを把握した上で対面することができるようになる。

 また、営業や手続きも変わる。従来は営業と契約・手続きという一連の流れが別々に動いており、顧客は営業を受けた後、最後に何枚もの書類を記載しなければならなかった。

 そこで「相談と手続きの一体化」を進め、説明をしながら同時に手続きも済ませる形にしていく。デジタル技術が進展したことで可能になったことだ。これにより「1時間かかっていたものを3分にしていく」(南氏)

 さらに、リアルとデジタルの融合で、今までに気づかなかった、あるいは気づいていてもアプローチできなかったニーズに対応することを目指す。

 例えばこれまで、住宅ローンは顧客が不動産会社や住宅メーカーに行き、購入を決めた後に銀行に相談するという流れだった。銀行はどの顧客が住宅を検討しているかを事前に知る術がなかったからだ。

 それを今後は、りそなのウェブサイトやアプリで住宅ローンのシミュレーションをした顧客のデータを掴み、顧客にアプローチすることが考えられる。

 同時に、住宅のように大きな金額が動く時には、やはり専門家に相談をしながら話を前に進めたいもの。その意味で「リアル、フェイス・トゥ・フェイスの価値はある」(南氏)。

 簡単な手続きはデジタルで、短時間で処理できるようにし、複雑な手続きはリアルとデジタルの融合で対応する。これを顧客が選択し、りそなはそれをサポートするという形。

「従来は商品、サービス起点で考えがちだったが、180度転換して、100%お客様側から考え直す仕組みづくりが、リアルとデジタルの融合の根幹にある」と南氏。顧客の側に立ち、金融は便利で身近だと思ってもらうこと。これが目指す姿だ。

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