2021-04-12

【コロナ危機下の不動産経営】賃貸人の権利金の返還義務

(貸しビル事業者Q.)弊社から、ビルの1階を飲食店舗用に期間5年で賃借するA社が、賃貸開始から1年経つ今般、コロナ禍での経営難を理由に中途解約を求めてきましたので、弊社は、契約を終了させることとしました。その際、A社は、権利金(賃料の2ヶ月分)を8割程度返還するよう求めてきました。

(弁護士A.)今回は、権利金のお話をします。権利金は、賃貸借の最初に賃貸人に差し入れる金銭で、「礼金」ともいわれ、店舗の賃借などでは賃借物件の場所的利益への対価などの性格をもつとされています。

 一般には、権利金は、賃貸借が終了しても返還されないものと思われているようです。確かに、賃貸借が期間満了により終了した場合は、期間一杯で場所的利益の対価に見合う賃借は完了していると考えられ、権利金の返還義務はないと言えるでしょう。他方、期間の中途で賃貸借が終了した場合は、多くの判決の例で権利金の一部返還の義務が判示されています。

 判例を概観しましょう。まず、最高裁昭和29年3月11日判決は、既に十数年間賃借がなされた以上は、権利金の返還義務はないと判示しています。また、最高裁昭和43年6月27日判決は、期間の定めのない店舗の賃貸借契約が2年9ヶ月で合意解約されたケースで、返還について特段の合意がないときは、権利金の返還義務はないと判示しています。賃貸借が期間の定めがないがある程度期間が経ち、いつでも賃借人から解約が可能な状況であり、場所的利益の対価に見合う賃借はなされていると理解されます。

 他方で、期間の定めのある賃貸借において、契約期間の途中での解約がなされた場合ですが、東京高裁昭和48年7月31日判決は、期間10年のところ、契約間開始2年余りで契約解除となったケースで、賃借人は、残存期間(8年弱)に対応する部分について按分して権利金の返還を請求できる、と判示するなど、残存期間に応じて按分しての返還義務ありとする判例は多いです。また、東京高裁昭和51年7月28日判決は、期間5年のところ3か月余りで契約解除がなされたケースで、賃借人は、殆ど使用収益をしないうちに契約解除されたから、権利金は全額返還を請求できる旨判示しています。

 貴社のケースでも、契約期間の中途での終了の場合であり、残存期間に当たる権利金の部分(按分で8割程度)は、返還義務ありと考えた方がよいでしょう。

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