LINE問題に思う
グローバル化時代にも国境は厳然と存在する。
LINEの中国への業務委託問題で、個人情報保護に“ぬかり”があったことで、改めて国と企業の関係が問われている。
モノ(商品、財貨)のやり取りであれば、税関などの役所が所管し、管理するわけだが、データ類は目に見えず、文字通り、クラウド(雲)上でのやり取りになる。
LINEは利用者約8600万人を数え、SNS(交流サイト)をはじめ、決済や広告など多様なサービスを展開。対話アプリで圧倒的なシェアを誇り、今や社会インフラを担う存在。今年3月にZホールディングス(ヤフーの親会社)と統合して、さらに勢力は拡大、存在感は高まる。
今のところ、情報漏洩はないとしているが、中国の取引先の関係者が日本のLINE利用者のデータにアクセスできる状態が問題となった。
LINEの親会社は韓国のネイバーで、対話アプリ上で投稿した画像や動画のみならず、キャッシュレス決済『LINEペイ』の情報も韓国のサーバーで保管。
同社は日本国内のサーバーに移管する方針だが、問題の本質は危機管理のまずさにあることだ。
国という存在に
インターネット元年(1995)から25年余。eコマース(ネット通販)を見ても、国境を意識せずに手軽にモノのやり取り、交易ができることが利点となり、企業活動や消費活動も盛んになってきた。
いわゆるデジタルトランスフォーメーション(デジタル革命)で、わたしたちの生活は超便利になってきたわけだが、インターネット革命から25年余が経ち、改めて国とは何か──が問われるようになった。
レジリエンスは必要
経済安全保障という考えが登場し、経済と安全保障という政治・外交・防衛が絡む時代。
かつて、価値観や政治体制の違う中国と交流するときに、『政経分離』がいわれた。しかし、トランプ政権(2017年1月2021年―1月以降、米中対立は先鋭化し、その流れはバイデン現政権で強まりこそすれ、弱まることはない。『政経一体』の中で、日本の立ち位置、針路を決定しなければならない。
具体的に、尖閣諸島をどう守るかという課題。中国海警局の武装した船は連日、接続水域、さらには領海内への侵犯を繰り返す。
米国は、日米安全保障条約の取り決めを順守すべく、「必要な行動を取る」と明言済み。
日本としては、米国の後ろ盾をもらった感じだが、主権国家として、自らがまず、自らの手で尖閣を守り抜く決意と手立てを講じるのとは別問題。
自らの国は自らの手で守る──。
そうした基本原則の上で、実際に衝突が起きた場合など、さらなる危機に発展しないような対話のパイプラインづくりも不可欠。
そうしたレジリエンス(弾力性)のある知恵を、厳しい現実の中でどう掘り起こしていくか。
海運業から見た世界の現状
世界には“乱”の兆しが見える。その中で、経済が成長・発展していくためには、やはり国際秩序が安定し、各国の間で協調する空気がないとうまくいかないのも事実。
世界の〝モノの流れ〟という面でみると、今、海運業界はコロナ危機の中で好調。同じ運輸の領域で航空業界が〝ヒトの流れ〟が止まって不振をかこつのとは対照的。
日本郵船社長・長澤仁志さんは、「消費に底堅いものを感じます。昨年第一クウォーターは非常に影響を受けましたが、消費回復を受けて物の動きも夏を越えてから上向き始めました。巣ごもりの環境の中で、これはよく言われていることですが、『モノからコトへ』という流れですね」と語る。
生き方・働き方改革に伴って、在宅勤務が増え、自分の家の環境を良くしようということで家具、家電、それに屋外の芝刈り機などの販売が今好調。それを受けて物流関連も業績好調という関連の図式。
長澤さんが入社した頃(1980)の同社の荷の扱いは、「6割から7割が日本発だった」というのが今は、その比率も5%を切っている。
海運業がそれだけグローバルに発展し、拠点が世界のあちこちにあるということ。いかに、グローバル規模で存在感を高めていくか、それには経済面で協調の輪を広げていくことが大事だということであろう。
データに基づく議論を
緊急事態宣言は3月21日解除されたが、途端に感染者が増え始めて、国民の間に不安感がもたげる。
7月には東京五輪・パラリンピックが開催される予定。どう対応していくべきか。
この1年余のコロナ禍に振り回される日々だが、今回のコロナ危機の教訓は何か?
「日本はデータに基づく判断が少ないのでは」という指摘が内外から寄せられる。
医療崩壊が言われるが、医療関係者の間でも、「重症化する人の割合は、昨年1月から4月は9・8%といわれたが、6月から8月は1・62%しかない。必要なベッドの数はそこからはじき出されるし、ただ感情的に崩壊だと叫ぶのではなく、冷静にデータに基づいて判断すべきとき」という声もあがる。
要は、重症患者を受けいれる専門病院と、中等症や軽症の人を受けいれる病院との連携プレーが必要だということ。
現状では、それがうまく嚙み合っていない。連携をコーディネートする役割を担う存在も必要だし、それをふだんから危機管理として訓練し、関係者が協調している所は今回もうまく対処している。
松本市は連携でなぜ成功?
例えば、松本モデルといわれた長野県松本市の場合がそうだ。
日本病院会会長を務める相澤孝夫さんのおヒザ元・松本市は30年前から、「救急医療と災害医療をみんなで話し合って、この地域でどうやっていくかをきちんと決めなきゃいけないよねとやってきた」という(インタビュー欄参照)。
20救急病院が全部参加して、県立こども病院、3つの医師会の会長、それから松本保健所、松本市の健康福祉部の関係者が協力し合って、いざという時の役割分担を話し合ってきている。
「昔は、救急車のたらい回しもあったし、うまくいかないところもあったんです。30年以上前は、それはまずいんじゃないかと。どう考えても全ての病院が全ての患者さんを受け入れるなんてことは絶対無理だと。お互いの病院の特徴もあるし、そういう中で役割分担をしていこうというのが一番だったんです」
相澤さんは地元で社会医療法人財団慈泉会の理事長であり、中核病院の相澤病院の最高経営責任者。人口24万人の松本市と塩尻、安曇野市など、周辺自治体を入れて43万人の地域連携である。
危機に際して、力を発揮するのはふだんからの備えがあってこそだと言えよう。