チラシ広告の挿入でひと工夫を!
新聞配達所には松葉杖を置いて作業に当たった。
「もう片足しか動かないからね。それで松葉杖をつきながら、折り込みの広告チラシをたたむ作業をやっていたんです」
他の配達員みたいに、作業ができないし、走れない、配れないということで、呼ばれる時には、「おい、3分の1」と言われたりもした。
そんな時、どう思ったのか?
「いや、全て3分の1だから。体は小さいし、足は動かないしね」と木村は淡々としたもの。
それより、新聞配達所内でチラシ広告をうまくまとめて、配達に出かける前にその準備をしておいた方が合理的と考えた。
当時、販売店は配達員10人ほどがおり、大学生、高校生、中学生のアルバイト学生と配達のプロの熟年者1人がいた。
そのプロの配達員を含めて、みんなが新聞社から刷られたばかりの新聞が届くまでの約1時間を無為に過ごしていた。
このことに「無駄ではないか? 」と木村は疑問を抱いた。
新聞が届けられる前に、チラシを整理しておけば、それだけ早く配達に出かけられるのではないかという木村少年の合理的な提案である。
「最初に見たとき、みんな新聞が来るまでダラダラしている。新聞社からのトラックで新聞がドサッと下ろされる。そして、配達員は自分の担当枚数が100枚だったら100枚分、70枚なら70枚分のチラシ広告を入れるわけですよ。場所が狭いから、スムーズに入れられないんですよ」
狭い販売店内で、一斉にチラシ広告入れの作業が始まるから、殺気立ってくる。
「もう、みんな早く帰りたい。早く配って早く家に帰りたいんです。それなら、段取りを早く、最初から必要なチラシ枚数を束ねておいて1つにしたら、早く終わるじゃないかと」
考えてみると当たり前のことだが、みんな従来通りのやり方を通している。
「新聞が届くまで生産性はゼロですからね」と木村は述懐。
チラシ広告は、新聞販売店の大事な収益源。だったら、朝の貴重な時間をもっと有効に活用したらどうかという木村の提案なのである。
旧来のままにやっていては、新聞配達も遅れがちになる。チラシの枚数が多くなればなるほど、新聞への挟み込みに時間が取られて、遅れが出てくる。
「僕は足が悪くて、そんなに配れないし、近所にちょっと配るだけだから、みんなの分までチラシを事前に一つの束にまとめることにした。配達員の大半が中学生、高校生で元気盛りと言ったって、一人の配達部数は100部くらいありますから大変なんです」
新聞社から新聞が届く前に、チラシを一束にまとめておいたら段取りも良くなるのではないかという木村の提案であった。
ここで考えたり、学んだりしたことは、26歳で起業家人生を歩み出してからも、大いに発揮されていった。
(「財界」3月24日号から、敬称略)