2021-03-19

「新型コロナに対応する医療現場から見えてくるもの」東京都健康長寿医療センター・鳥羽研二理事長

鳥羽研二・東京都健康長寿医療センター理事長

とば・けんじ
1951年長野県生まれ。78年東京大学医学部卒業。東大医学部附属病院や東京警察病院、杏林大学医学部付属病院などを経て、2010年4月独立行政法人国立長寿医療研究センター病院長。14年4月同センター理事長・総長。15年4月国立研究開発法人国立長寿医療研究センター理事長

コロナ対策に病院同士の連携が不可欠と言う声が高まる中、東京都板橋区では、連係プレーの好例として注目されている。東京都健康長寿医療センターと、隣接する豊島病院がその主役。エクモ(人工心肺装置)の扱いの連携も含めて効果を上げている。高齢者医療のパイオニアとして知られる東京都健康長寿医療センター。新型コロナでは全体として感染を制御してきた。コロナ診療の現状や、地域のネットワークの大切さを理事長の鳥羽研二氏に聞いた。

隣接する豊島病院と新型コロナで連携


 ─ こちらのセンターは高齢者医療に実績がありますが、新型コロナは高齢者にどう影響を与えていますか。

 鳥羽 高齢者は病気になるとストレスですごく弱くなってしまいますが、新型コロナ感染症はストレスそのものなんです。発熱で弱って生活機能が落ちるだけではなくて、回復したあと、体を動かして筋肉を元に戻すこと。そして近所の人や仲間と会って話をして、心の元気をとり戻す。この2つの自然なリハビリテーション機能が禁じられるわけです。出歩くなというわけですから。

 この近所に大山商店街(東京都板橋区)があります。昼カラオケといって800円くらいで歌い放題のお店があって、昔はよく歌声が聞こえていましたけれど、今はできません。そうなると当然コロナによって、より衰えていくわけですね。

 ここの隣の東京都保健医療公社豊島病院がコロナ病院に変わりまして、あちらで240人のコロナ患者を受け入れるということで、50人の一般患者をこちらに引き受けたりしています。さらに、あちらは人工呼吸器が8台くらいしかないんです。とても足りないと思いますが。そしてECMO(エクモ)はありません。エクモというのは人工心肺装置で、最も重症な人を引き受けます。

 ここにはエクモが3台あります。ですから、あちらで手に負えなくなった方はここに来ます。それで、エクモで治してお戻りいただくのですが、今まで4例エクモをやって、54、60、64、59歳、いずれも男性で、全例エクモ離脱に成功しました。

 ─ 双方の病院の連係プレーがうまくいっているのですね。

 鳥羽 全員豊島病院にお戻りいただいて、そのあとリハビリをして、全員自宅に帰っています。ただ、これには涙ぐましい努力があるんです。

 すなわち、エクモをやったらよくなるのではなくて、自分の肺がいかに膨らんで、もう一回再機能するかというテクニックが必要なんですね。

 ─ 具体的にはどんなテクニックですか。

 鳥羽 たんが何度も詰まった気管支からたんを取ったり、たんが出やすいようなケアをしないといけないわけです。

 まず、たんを引くには、気管支鏡というものを使って気管支の中に内視鏡を入れるんです。それを使って、詰まっている気管支を見て、たんを引くんですね。それを毎日やっています。

 それから、肺炎は背中の方にたんが溜まります。したがって、腹ばいにすると重力でたんが落ちてくるのです。だから、腹ばいにして人工呼吸器をつなぐと、よく効くわけです。

 ─ そうした治療はノウハウをもった専門医が行うのですか。

 鳥羽 ええ。そういうことをしながら、しっかりとケアをすると、かなり重症の人でもよくなるということです。

 ─ お隣の豊島病院と連携がとれているということですね。

 鳥羽 そうですね。うちは他の病気の重症で亡くなった方はいますけど、コロナの肺炎が本当の原因で亡くなった方は3例という状況です。

 ─ 現在何人ぐらい入院しているのですか。

 鳥羽 トータルでは200例以上になると思います。

 そういう高齢者は治りにくいし、免疫も落ちていますので、全身的なケアをやりつつ、ステロイドでも、アビガンでも、レムデシビルでも、ヘパリンでも、フサンでも、全て使っている状態です。

 それが救急治療の現状ですが、PCR検査が足りない時期から、ここの横に連携検査外来というのがあります。

 ─ こちらのセンターを少し入った所に大きな看板が出ていますね。

 鳥羽 あれは、PCR検査を行うセンターです。4月から地区の医師会の先生が、紹介状があれば全部PCRを受けていたんですね。だから、板橋区の先生は不自由しなかったはずです。

 ─ 板橋区は医療機関同士の連携が取れていたのですね。

 鳥羽 はい。それでも検査依頼は増えてきて、当時は民間の検査に出したものですから、結果が分かるまでに2日ぐらいかかっていました。そのあと、7月、フィルムアレイというインフルエンザも含む20種類のウイルスが同時に分かるものを6台入れました。それは1時間で結果が出ます。それでも1日処理能力が24例ぐらいにしかならなかったんですね。足りないわけです。

 ここには研究所があります。1人平均競争的研究資金を1000万円くらい稼いでいる優秀な研究所ですけど、70人くらいの独立した研究者がPCR検査はお手のものなので、ボランティアでやってくれて、もちろん危険手当は払っていますけれど、最大で1日60例。

 ─ 今60例処理ができるわけですか。これは、1つの施設では多いですか。

 鳥羽 たぶんそうですね。ほかの大学でやっているところもあるでしょうけれど、うちは60プラス24で84例、毎日できます。あと外注もあるので、90くらいはできます。それで、相当密度濃くPCRをやってきました。

 去年の9月ころから、救急入院をやりましたけど、その後、入院患者は全員2日前にPCRをやって、陰性を確認してから入院するようにしました。

 全員PCRをやってから入院。それで今年の1月までは院内感染はゼロでした。

 ─ 院内感染ゼロ。しっかり制御できていたわけですね。

 鳥羽 はい。ところが第3波になって、救急の方で陽性が一般病棟で出ました。コロナの関連病院から少し前にPCR陰性だったということで、入院前のPCR検査をちょっと油断して省略した中から2例出たあと、院内感染が出てしまいました。これだけ注意していても、やはりちょっと油断があるとダメだということです。

 ─ 緊張感を要求されるということですね。

 鳥羽 それで、前よりもウイルス量が多いのではないかというような話で、PCRの研究所で変異種も一応検査しました。幸いにも変異種ではなかったです。そういうような状態ですね。

 今日(2月上旬)もですけれど、毎日12時45分からコロナ会議で、その日の対策などを話し合っているところです。少し峠は越えたようなので、安心はしています。

看護師の1割弱をホテルに派遣


 ─ 気を抜かずに、ということですね。最近医療崩壊ということが言われていますが、そのことをどう感じていますか。

 鳥羽 全然医療崩壊なんてしていません。ただ、ご存じだと思いますが、今、東京都はホテル療養をしていますね。

 ─ 病床が足りないからホテルで、ということですね。

 鳥羽 ええ。今、8カ所ありますが、ほとんどのホテルの立ち上げは、うちの看護師さんがやっているのです。

 ─ こちらから派遣しているのですか。

 鳥羽 ええ。うちから現在4カ所のホテルに行っています。

 ─ 何人くらい派遣してるのですか。

 鳥羽 看護師さんは50人です。立ち上げについてノウハウがあるので、その後のセットアップから注意点までビデオに撮ってあります。東京都に提供していますけれども、それで信頼されているということです。

 ─ 看護師は全部で何人おられるんですか。

 鳥羽 約600人です。

 ─ 600人だとその1割近くをホテルに派遣しているのですね。

 鳥羽 ええ。550床を今、460床にしてやっています。しかも、コロナ病床はそこに集中しなければいけないものですから、院内感染が出たときは救急も制限しました。もう本当に経営的にはすごく厳しいですね。でも、広がりは少なかったので、ダメージは最小限だと思いますね。大きな病院で2カ月くらい診療がストップしたりしているところもありましたので。

 ─ 一度もストップはないのですね。

 鳥羽 完全なストップはありません。ただ今回、一部救急の人数を半分くらいにしましたが。

 ─ それはいつごろですか。

 鳥羽 1月下旬の院内感染が出た時です。それまでは全然ないですよ。

役割分担として生き残るためにも医療機関の連携強化を


 ─ お医者さんは今、何人いるのですか。

 鳥羽 結構たくさんいまして、全部で150人ぐらいいます。

 ─ 看護師が600人でしたね。ベッド数はいくつですか。

 鳥羽 コロナ前が550床で、現在の運用が461床です。

 コロナが拡大してから入院は1割、外来は2割減っています。ただ、割合軽い方が多く来ていたものですから、減ってから診療単価は上がり、また、紹介率、逆紹介率は上がりました。すなわち、医療機関での分業がより促進されたと言えます。
 
 10年後くらいに急性期ベッドがすごく余るというのが、このコロナによって先取りされたのではないかと思います。

 ─ 先取りですか。

 鳥羽 ええ。ですから、私たちの病院も、今回のコロナが収まっても、550床には戻しません。

 ─ それで対応できると。

 鳥羽 シミュレーションを行って十分対応できるということが分かりました。

 ベッド稼働率を高くする。今は独立行政法人ですが、以前は都の病院でしたから、午前退院、午後入院といったホテルのような対応はしてなかったんですね。普通の民間病院では、午前退院、午後入院ということをしているのですが、同じようにしました。それによって稼働率も単価も上がって、ダメージはベッド使用率が下がったわりには最低限、最小限のダメージでした。

 ─ 最小限のダメージですか。

 鳥羽 今後の急性期病院のモデルは、やはりコロナによって、ひとつ方向性も見えたのではないかと。ひとつは、ベッド数を減らして、より緊急性の高いものに特化しつつ、地域のネットワークで、かかりつけ医との連携の方向を強めていかなければいけない。

 ─ これは、今も具体的に連携の協約というか、そういうものを結んでやっているということですか。

 鳥羽 協約というか、この辺りでは板橋区、練馬区、北区、豊島区の4区の医師会長が毎年連携の集まりを20年ぐらいやっています。去年はできませんでしたが。

 ─ 20年というと、かなり長い間、交流が続いていますね。

 鳥羽 症例発表をしたり、交流をしたりしています。特に板橋区医師会は、今言ったようなフレイル(虚弱になった高齢者)サポート医の第1号ですし。病院の生き残りのためにも、役割分担として生き残るためにも必要ですね。

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