2021-03-18

【コロナ禍で注目】デンカのライフイノベーション事業

4月1日付で社長の山本学氏(右)は代表権のある会長に、取締役専務執行役員の今井俊夫氏(左)が社長に就任


東大、第一三共と
ガン治療用ウイルスの製造も

 デンカのライフイノベーション事業の歴史は1950年に遡る。戦後の感染症対策に貢献した1945年設立の東芝生研が、「生物理化学研究所」として独立したのがルーツだからだ。

 以来、国内初の細菌検査試薬の販売、副反応が少ない「高度精製インフルエンザHAワクチン」の製品化に成功するなど、国民の健康維持に寄与してきた。

 だが、一時、ワクチンの副反応がマスコミに取り上げられ、ワクチン接種を拒否する人が増加。その後、インフルエンザで亡くなる高齢者が増え、ワクチン接種の必要性が見直され、今に至る。今でこそ、阪大微生物病研究会と田辺三菱製薬、北里と第一三共、化血研の事業を明治HDが承継、塩野義製薬がUMNファーマを子会社化するなど大手のワクチン参入が進むが、かつては阪大微研など半官半民企業と民間ではデンカのみがワクチンを提供する時代もあった。

「ワクチンだけでは大変だったが、診断薬があったおかげで何とか生きながらえてきた」形だ。

 感染症は流行の有無があり、ワクチンの開発製造には投資も嵩むなど収益性の問題から、大手は敬遠してきた領域。その中でデンカは粛々と事業を継続。

 その結果「感染症においては、バクテリアやウイルスのライブラリーをものすごい数持っている。その意味で、日本の防疫に診断の部分で貢献できる」強みを持つようになった。

 検査試薬の分野ではいち早く海外市場に参入、ロシュなどの大手診断薬装置メーカーにも供給を続けている。

 だが、歴史とノウハウだけでは事業は立ち行かない。そこで、いま注力しているのが遺伝子パネル検査の開発だ。

 台湾のプレックスバイオ社に資本参加し、敗血症向けに1つの検体から何十種類の菌を検出できる技術を開発中。抗生物質の乱用による耐性菌が問題になる中「血液に入り込んだ細菌の種類を特定し、治療法や薬剤を選択できるように」することで、耐性菌問題に対応する方針だ。

 今年1月には、東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授が開発し、第一三共が製造販売の権利を取得したガン治療ウイルス製剤の製造も担うことになった。

 2月5日、社長交代を発表したデンカだが、社長の山本学氏は「スペシャリティ化とプロセス革新の進捗で進むべき方向性が明確になった。新型コロナウイルスでも危機管理体制を早期に構築、機能させたことで安定的に対応できる体制が整ってきた」と語り、「さらに変革のスピードを上げていくため交代を決断した」という。

「命を尊び、人々の健康を守ることを使命として、社会から信頼される企業を目指す」のがライフイノベーション部門の理念。市場原理の中でパンデミックにどう対応するかという今日的課題を乗り越えてきたデンカのライフイノベーション事業である。

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