2021-03-18

【コロナ禍で注目】デンカのライフイノベーション事業

4月1日付で社長の山本学氏(右)は代表権のある会長に、取締役専務執行役員の今井俊夫氏(左)が社長に就任

新型コロナウイルスの抗原迅速診断キットの国内トップメーカーのデンカ。コロナ禍の社会を支える基盤は1950年から続く技術とノウハウの蓄積によるもの。市場原理の中、デンカは事業の理念と収益のバランスをどう図ってきたのか──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako


高齢者施設、医療現場の
感染拡大防止に貢献

 コロナ禍での増益─。

 デンカが発表した2021年3月期第3四半期決算は売上高2620億円(前年同期比9・2%減)、営業利益280億円(同16・7%増)と大幅な増益。通期でも売上高3500億円(前年比8・1%減)、営業利益330億円(同4・5%増)を見込む。

 発表翌日の株価は一時7%高の4260円を付けるなど、市場の評価も高まっている。

「電子・先端プロダクツ」のEVや半導体関連など高付加価値製品の比重が高まり、22年度が最終年度の経営計画「Denka Value-Up」も好調に推移している。

 事業別の業績を見ると、実は今期一番の稼ぎ頭は「ライフイノベーション」事業。3Qの売上高は366億円(前年同期比127%増)、営業利益138億円(同220%増)となっている。

 ライフイノベーション事業が好調な理由は、コロナ禍の社会を支える事業だからだ。

 デンカ執行役員・ライフイノベーション部門長の高橋英喜氏は次のように語る。

「PCR検査数が伸びない中、国としてもその場で迅速に判定できる抗原検査をもっと活用しようと、われわれに『できるだけ多く検査キットを作って下さい』との要請がありました。特にインフルエンザの季節が近づくと、どちらかわからなくなってしまうため『検査キットを増産してある程度の量を確保して下さい』とのことでした。そこで、日産13万人分まで能力を上げてフル生産で対応しました」

 デンカは20年8月に新型コロナウイルス抗原迅速診断キット『クイックナビ™COVID19Ag』を開発し、販売を開始。医療現場での素早い診断に貢献した。

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 PCR検査は遺伝子を調べるため、検査には専門の人材が必要で判定結果にも時間がかかる。

 一方、デンカの検査キットはPCRに比べて感度は落ちるものの、鼻の中などにあるウイルスを拾ってウイルスの有無を調べるため、15分程度で陽性か陰性かの判定が出る。

 今、コロナ禍で問題になっているのは医療施設や高齢者施設などでの集団感染。 感染者数が増大する欧米では様々な研究論文が発表されており、高齢者施設の職員や入居者は週1回、抗原迅速診断キットで検査、感染の疑いが出たらすぐに処置する対応を取っている。

 多少感度は低くても、感染拡大を防止するには、迅速診断キットで感染者をいち早く隔離する必要があるという判断だ。

 日本でも昨年12月、今年1月、2月と厚労省から老人ホームや介護施設、病院の医療従事者に定期的な一斉検査を求める通知が出されている。行政検査のため検査費用は国が負担する。

 日本ではデンカの他、富士レビオやタウンズなどが迅速検査キットを製造販売しているが、デンカは供給力で他社を圧倒する。

「もともとインフルエンザの抗原キットでトップシェア。インフルエンザはもっと患者が多く、1000万、2000万キットのオーダーがあるため、その生産能力があり、今回も供給できた」と高橋氏は語る。

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