2021-03-11

東電原発事故から10年 再稼働や会長探しが焦点に

小早川 智明・東京電力ホールディングス社長

東京電力の福島第1原発事故は発生から10年が経った。2012年6月から5年間社長を務めた広瀬直己参与の退任が決まるなど、事故直後の混乱を知る役職員は東電や関連機関でも一線から退きつつある。だが、廃炉や復興に向けた難題は山積し、実質国有化された東電をめぐる環境は厳しいままだ。空席の会長探しを含めて、経営再建に向けた体制再構築が急務となっている。

 東京電力ホールディングスと経済産業省が当面の目標に掲げるのが、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働だ。実現すれば1基当たり年1000億円の利益を改善でき、16兆円の廃炉費用を負う東電にとっては「再建のカギ」(同社関係者)とされる。経産省は昨年夏以降、立地自治体などへの説明を加速させてきた。

 だが、柏崎刈羽原発では東電社員の不正侵入や安全対策の不備といった不祥事が相次ぎ発覚し、地元には不信がくすぶり続けている。事故後、社外との対話では外部出身の会長職が重要な役割を果たしてきたが、昨年6月に川村隆・前会長が退任した後は空席が埋まっていない。経産省は水面下で後任選びを続けているものの、「原発再稼働という難題に正面から取り組める企業トップはそうそういない」(財界関係者)。エネルギー業界内には「嶋田隆・前経産事務次官が何らかの形で東電入りするのではないか」といった憶測も出ている。

 経産省が柏崎刈羽の再稼働といった東電問題への対応を急ぐ背景には、梶山弘志経産相の存在も影響している。原発をめぐる課題は政治的議論になる可能性が高いが、「梶山氏は選挙に強く、先送りをよしとしない」(自民党有力議員)。政府関係者は「梶山経産相の在任期間中に少しでもエネルギー問題への対応を加速させる」と述べ、東電の柏崎刈羽原発再稼働にとどまらず、事故後に凍結した原発新増設についても議論を進めたい考えを示した。

前提となっているのは、政府が打ち出した「実質ゼロエミッション」宣言だ。この方針では50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることになるが、実現を支える電力供給の在り方は明確になっていない。政府関係者は「再生可能エネルギーで技術革新が起きなければ、原発の新増設が最も有効な策になる。技術革新に賭けるのか、新増設を解禁するのか、議論を先延ばしすべきではない」と語っている。

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