2021-03-24

100年前、体温計国産化で創業、 カテーテル・エクモで存在感─  医療機器大手 テルモ・佐藤慎次郎の 「変革期にこそ、的確な ソリューションを!」

佐藤慎次郎・テルモ社長CEO


血漿活用の治療や
滅菌型ロボットも投入

 基本3原則の2つ目は、医療の現場に製品の安定供給を続けること。医療とその医療を支える医療機器の生産はいわゆるエッセンシャルワーク(人々の生活に必要不可欠な仕事)であり、いわゆる危機にあっても、サプライチェーンを閉ざしてはならないということ。

 3番目に、「コロナの予防と治療というものに貢献できることには積極的にチャレンジしていこう」ということである。

 例えば、エクモ(体外式膜型人工肺)はコロナ患者が重症化した場合、〝最後の砦〟としての機能を発揮している。

 エクモの生産・販売では同社は国内の医療機器市場で約7割のシェアを持つ最大手。エクモの安定供給と共に、その使い方の普及、浸透という点でも役割は重い。

 また、同社が開発した〝血液治療システム〟が今回のコロナ禍でも採用されている。

 患者の血漿を採ってきて、それを罹患した患者に投与する形で抗体をつくり、それで治していくというやり方。まだ、有効な治療法が見つかっていない現段階で、同社の開発したこのシステムが使われ〝1つの希望〟になっているということである。

 さらに、滅菌型のロボットの登場。これはテルモの製品ではなく、米国ゼネックス・ディスインフェクション・サービス社が開発・製造した紫外線照射ロボット『ライトストライク』で、テルモが2017年1月に日本での独占販売権取得で契約したもの。

 医療現場は人手不足で超多忙な状況が続く。人手で何時間もかかる治療室の滅菌作業だが、ロボットだと5分で済む。そうすれば、医療の前進に貢献できるということでの〝滅菌型ロボット〟の導入である。

テルモ エクモ

3つのカンパニーの
相乗効果を!

 コロナ危機に今期(21年3月期)の前半は影響を受けた。コロナ禍初期の昨年3月―6月はコロナ以外の通常の診療が止まり、手術数が減ったことで、心臓血管関連の売上が減少。夏頃から通常医療も回復軌道になった。今期は前期比で約5%減位の水準にまで戻る見通しである。

 同社は今、3つのカンパニーで事業を構成。カテーテルの心臓血管カンパニー、医療サービス・バイオ医薬品関連のホスピタルカンパニー、そして血液・細胞テクノロジーの3つである。

 以前は、心臓血管事業の1本柱だったが、企業の持続性を考えた場合、1本柱よりは2本柱、さらに3本柱のほうが成長も図れ、持続性の観点からも安定が図れるということ。

 ちなみに売上構成は心臓血管が56%、ホスピタル27%、血液システム17%という比率。

「4年前に新しい5か年計画をスタートさせたときに、これからテルモは心臓血管カンパニーだけに頼るのではなくて、3つのカンパニーそれぞれがちゃんと成長の芽を育て、バランスよく成長していくようにしていくと社内に言ってきました」(インタビュー欄参照)。

世界の地の果てで
テルモ製品に出会うと…

 事業の進化─。注射針やシリンジ(筒)を手がけてきた知見や強みを生かして、製薬企業向けに注射器に薬を充填して提供する開発製造受託(CDMO)にも注力。これは単なる製造受託ではなく、製造開発から携わり、自分たちのコア技術を活用して、顧客、医療現場の生産性向上に貢献したいというテルモの理念の実践である。

 より成長を図っていくには、3つのカンパニーに横串を通し、相乗効果を上げることも大事。「ええ、全体としてのテルモの顔を持つと。ワンテルモでお付き合いができるような仕組みづくりですね」と佐藤氏も語る。

 海外売上比率は70%以上となり、グローバル化が進む。

「私は結構世界中を回りますけれども、本当に世界の果てのこんな病院にまで、われわれの商品が棚に並んでいる光景に接すると、もう感動的ですね」

 グローバルな事業展開だが、医療はその国や地域の文化、風土とも密接にからむ。そうしたローカル性を考慮しないといけない。医療制度は国によって違うし、その仕組みは多様だ。

 そうした多様な現実の中で、「テルモさんの医療っていいよね。そしてテルモさんはいい会社ですよねといわれるように頑張りましょうと。それは世界中のテルモの共通の願い」と佐藤氏。

 では、これからの医療はどう進むか─。

「医療は難しいところがあり、もう医療は待ったなしのところが実はあります。医療の現場はテクノロジーの集まりで、そこにいろいろなデータが蓄積されてきている。医療現場には日々DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せていると」

 デジタル革命が進むとは言っても、医療は一般の産業界とは事情が異なる。国の関与もあるし、人の命と健康に直に関わり、安全性の検証が不可欠。医薬品開発にしろ15年位の期間を要するし、長いタイムスパンで安全性、有効性を確認していく。

 そういう事業特性の中でDXが確実に進む。同社は数年前から、このDXに取り組み始め、最近、DX推進室を設置。

「DXのネタが生まれつつあるし、3つのカンパニーがばらばらにやっているとやはり非力ですよね。だから、われわれコーポレートの所にそうした人材やテクノロジーを集積して、各現場のプロジェクトとか開発を連携しながら価値を高めていきたい」

本誌主幹・村田博文

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