2021-03-09

【環境経営が成長に直結する時代】サーキュラーエコノミー実現に向け、東大と連携 三菱ケミカル社長・和賀昌之の「化学会社も人類の共有財産を創る時代」

写真左から、藤原帰一・東京大学未来ビジョン研究センターセンター長、五神真・東京大学総長、石井菜穂子・東京大学理事、グローバル・コモンズ・センターダイレクター、和賀昌之・三菱ケミカル社長

「クリーンな水素を使って化学品にしたり、CO₂を使ってオレフィンを作っていくことも」--。こう語るのは三菱ケミカル社長の和賀昌之氏。厄介者のCO₂を原料として活用できるのも化学の力。総合化学の力で社会課題を解決するため、社長直轄の「サーキュラーエコノミー推進部」を設置。企業は自らの技術を磨き、中立的な立場の大学が社会実装の仕組みを牽引するという新しい産学連携を進めている。 


人々の生活様式を
どう変えていくか?

「一昨年から勉強を始め、昨年4月、社長直轄の『サーキュラーエコノミー推進部』を作りました。ただ、まだ不十分との思いがありました。欧米、特にヨーロッパのNPOやアカデミアがオピニオンリーダーになる中で、われわれもそうしたところへアクセスできるような実力を備えなければいけないという思いがあったからです」─。

 三菱ケミカル社長の和賀昌之氏は、東京大学が昨年8月に設立した『グローバル・コモンズ・センター(Center for Global Commons:CGC)』への〝寄付〟と〝共同研究〟を始めた経緯をこう語る。

 CGCは、東京大学総長の五神真氏が2015年10月に掲げた『東京大学ビジョン2020』の取り組みから生まれた組織。

 SDGsを推進する司令塔として17年7月、総長直下の『未来社会協創推進本部(FSI)』を設置。19年4月にはその活動を推進する中核的機関として、シンクタンク的機能を持つ『未来ビジョン研究センター(IFI)』を設置。そして昨年「地球環境を構成する最も重要なシステム」である〝グローバル・コモンズ(人類の公共財)〟を保全するため、科学に基づいた国際的な枠組みと実践的な意思決定ツールを提供するCGCを設立した。

 第一段階として、グローバル・コモンズの保全に各国がどう貢献しているかを評価するインデックスを提供。また「サーキュラーエコノミーの実現」と「食料システムの転換」を優先テーマとして研究を進める。

 五神総長が掲げる「社会変革を駆動する」主導的な役割を果たすのがCGCであり、持続可能性とグローバル・コモンズにおける日本の積極的な世界貢献も目指していく。

 こうした東大の活動と並行して自らの活動を進めてきた三菱ケミカルだが、社内だけでの活動に限界を感じていた頃、出会ったのがCGC初代ダイレクターに就任した石井菜穂子氏。

 石井氏は当時、地球環境ファシリティのCEO兼議長としてワシントンを拠点に活動。任期を終えた後はCGCに来ることが決まっていた。

 和賀氏は、石井氏からCGCの意義、五神総長の「産学協創」の考えを聞いて共感。「社会全体を動かし、駆動させるためにもぜひ参加させていただきたい」と参画を決めた。同時に「サーキュラーエコノミー推進部」に足りない部分を持っている石井氏を三菱ケミカルのシニア・エグゼクティブ・フェローに招き、共に活動していくこととなった。

 寄付や共同研究の中身は詰めている段階だが、1社の取り組みではなく「化学業界として何をすべきか」がテーマになる。

 2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを掲げる日本だが「何も燃やしていない世界は考えられない。完璧なイノベーションが起きて0になってもゴミは出る。どこかの業界がネット0ではなくビヨンド0にならないと国全体として0にはならない。そのためには、化学業界がビヨンド0の技術を作り、広く世界にライセンシングすることで初めて、トータル0の世界が見えてくる」と和賀氏は語る。

 だが、業界の取り組みだけでも限界がある。「社会実装を起点に置いたとき、民間会社がいくら主張しても『自分たちの利益のためにやっている』と見られてしまう。アカデミアという中立的な立場にいる東大の力を活用させていただきたい」と東大との産学連携に期待する。

 ネット0の世界では「ある〝不便さ〟に慣れていかなければいけない。今までは〝質〟と〝値段〟で商品を選んできたが、これからは
〝環境〟も必要になる。そうした消費を促すのは教育であり、アカデミア、政府、行政を巻き込んで世の中の仕組みをつくり、人々の生活様式を変えていかなければいけない」と考えている。

積水化学の「得意技を磨き続ける経営」

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