欧米とは違う
日本発のガスメジャーとして
買収合戦を経て、〝日本発ガスメジャー〟となった日本酸素HD。これまではM&Aで事業規模を拡大してきたが、自らの規模が大きくなる中で、今後は既存事業をいかに伸ばしていけるかが、成長のカギを握る。
新たな成長ステージに入る中、次の成長をどう見据えているのか──。
「110年の歴史を紐解くと、マーケットは明らかに変わっている。ところが、産業ガスの需要はどうかというと、変遷しながら必ず新たな需要が出てきている」
例えば、日本のエレクトロニクス産業が強かった時代は国内に需要があった。それが海外に移る今、半導体大手と一元的な取引をする〝トータルエレクトロニクス〟という活動で新たな需要獲得に動いている。
最近、日本では改めて〝水素〟への期待が高まっているが、市原氏は「われわれはトップメーカーなので技術的にはどんな対応もできます。ただし、需要がどうなるのか。今は、水素自動車より電気自動車のほうに行っていますよね。われわれは対応はできるので、どこに出番があるか、情報をきちっと取りながら、調査、検討をしている段階」と水素市場の行方を冷静に見極める。
それよりも5Gやテレワークの普及で「間違いなく伸びるエレクトロニクス」など確実に見える需要への対応を重視する。
現在、21年度を最終年度とする第二次中期経営計画の途中。22年4月から次期中計がスタートするが、「コロナの影響で不完全な状況の中、プランを公表するわけにはいかない。最初の1年は中計とは別の目標を立て、その1年でコロナなどの状況を分析した上で、22年から中計を実施していこう」と考えている。
だが、一次、二次で共通する「構造改革」「イノベーション」「グローバリゼーション」「M&A」の4つのキーワードは継続する方針。
M&Aに関しても、これまでのような規模拡大のM&Aではなく、19年にリンデから買収した米国のHyCO事業(天然ガスから分離される水素と一酸化炭素を石油精製や石油化学産業にパイプラインを通じて大規模供給する事業)など「イノベーション」のキーワードに合致するM&Aを実施。日本で半世紀にわたり蓄積してきたオンサイトの知見や経験、技術を活かし、米国での新たな案件獲得につなげている。
欧州はエレクトロニクス分野が弱いため、グループの知見を活かして事業展開を図る。また、酸素、窒素、アルゴンを分離する空気分離装置を造れるのはグループの中で日本だけ。
「各地域とのコミュニケーションを密にし、ビジネスを共同で実施しながら総合力でさらなる成長」を目指していく。
消費地立地という事業の特性を踏まえても「まだ29の国と地域にしか進出していない。もっともっと拡大できるチャンスはある」。
規模と技術というグループの総合力で、日本発ガスメジャーとして世界市場を開拓する。